83:21/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:03:24.36 ID:ldlfMP+C0
店に着くなり、目付きの悪い1人と1匹に睨まれてしまう。さっき出会ったばかりの人形にすら非難されてしまうとは。
「え、だめ?」
プロデューサーが千夜を連れてきたのはアクセサリー店だった。
千夜には黙っているつもりだが、ここへはちとせの仕事に付き添った折、偶然見つけたちとせに入ってみようとせがまれて立ち寄ったことがある。
そのため一般人には手が出せないほどの高級店でもないのだが、その方が気軽に身に着けてくれそうだから、とちとせは楽しそうに見て回っていた。
「ここにお嬢さまが気に入るようなものは……たとえあったとして、お嬢さまであれば簡単に手に入る。そんなものを贈っても意味がないと言ったでしょう」
「意味ならあるよ」
アクセサリーをあれこれ手に取り、身に着ける人に似合うかどうか悩んでいるちとせを近くで見ていて感じたことがある。
「千夜の料理と一緒だ。予算はともかく、限られた中でちとせのことを精一杯考えて、似合いそうなものを選ぶ。そうやって贈られた物にしかない価値が、絶対にあると思うんだ」
「……。私が選び、贈ること……それこそに、価値が?」
「贈り物ってそういうものだろ。同じものを俺と千夜があげたとしても、ちとせは千夜から貰った物の方が嬉しいに決まってるし。……いいから中に入ろう、俺たち共同のプレゼントなんだからここからは千夜の出番だからな」
半ば強引にでも千夜を店内に連れていこうとしたが、そうする必要はなさそうだった。
気後れしながらも、千夜は徐々に覚悟を決めた目付きに変わる。
「……そういえば、そういうことにしてありましたね。お前の言い分ではお前が加わると贈り物の価値が減ってしまいそうですが」
「そこは足し算でいこうか? ここまで来たのに泣くぞ、俺」
「半分冗談です」
「もう半分は!?」
「ふふ。今一度、お前の甘言に乗せられてやるとします。これでお嬢さまを失望させたら……わかっていますね?」
「そこはほら、千夜の選んだセンスが悪いってことで」
「…………」
「あからさまに動揺するのもやめよう? 大丈夫、千夜なら出来る。ちとせのことを一番知ってる千夜なら。よっ、僕ちゃん! ぐふぅっ!?」
「その名で呼ぶなと……これでも持って黙っていなさい。お嬢さまに相応しいものを、選んでみせますから」
カバンと黒いぴにゃこら太を鳩尾に押し付けられ、呼吸が止まりかけたプロデューサーを無視して千夜は店へ入りアクセサリーを物色し始める。
こういう場に行き慣れていないのか、選ぶという行為が不得手なのか、それとも素手で触ることに抵抗があるのか。真剣な眼差しとは裏腹に動きはぎこちないながらも。
ある程度は絞れたようで、立ち止まる場所も限られてきた。そこで千夜が手に取っていたものを見て、やはりちとせのことは千夜に任せるのが正解だと確信した。
千夜が手に取っていたそれは、ムーンストーンのアクセサリーだった。
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