白雪千夜「私の魔法使い」
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84: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:04:16.74 ID:ldlfMP+C0
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「お誕生日、おめでとうございます。黒埼ちとせさん」

「んー、硬過ぎない?」

「そう? じゃあ……ちとせ! 生まれてきてくれてありがとう!」

「今度は無理してるー」

「無理って。えっと、ならどう言えばいいんだ……?」

 魔法使いらしい誕生日の祝い方、との無茶振りに応じるためまずは挨拶から入ってみるプロデューサーだったが、誕生日に魔法使いらしさをどう表現したらいいのか見当もつかなかった。

 黒埼家で開催されたささやかな誕生日パーティーに当然のように出席を余儀なくされ、都合3度目の訪問となる。ちひろに合わせる顔がない。

「いっそ引っ越してくればいいんじゃない? 空き部屋あるか聞いてあげよっか?」

「俺がこのマンションに住んだら破産だよ……」

 下々には下々の住む世界があり、お嬢さまにはお嬢さまの住む世界があるのだ。

 自宅のリビングからこれだけの夜景を好きなだけ展望できる生活は、どうにも慣れそうにない。特別な日にだけで十分だ。

「その特別な日に何も用意してくれてないとは思わなかったなぁ」

「いや、ちとせさん? 気持ちだけで充分って言ってくれたじゃないですか」

「魔法使いさんは好きな女の子にしかプレゼントしてくれないんだ。ふぅん……」

「人聞き悪いなあ。悪かったって」

露骨に拗ねているちとせも珍しい。いつもの調子ならわかっててやっているようにしか見えないのだが、全てを見透かすかのような紅い瞳にも不調な時があるということか。

 プレゼント自体は用意してある。しかしそれは千夜が持っているので、今現在プロデューサーがちとせへ渡せる物は無い。屁理屈だが嘘はついていないのだ。

 魔法使いらしい誕生日の祝い方というのも、機嫌を損ねてしまったちとせによる無茶振り以外の何でもない。主人の誕生日パーティーに相応しい晩餐を千夜が作り終えるまで、魔法使いは針の筵がお似合いだとでも言いたげだ。

「あーあ。千夜ちゃんが羨ましい」

「ん? 何でだよ」

「だって千夜ちゃん、いつの間にか3つもプレゼント貰ってるし。前のも合わせると4つ?」

 ぴにゃこら太の生存の裏が取れたのはいいとして、残り2つは身に覚えがない。あるとしたら変装用に渡したキャスケット帽子と眼鏡くらいか。

「魔法使いさんを見倣ってあの子を着飾らせてあげたかったのに、先まで越されちゃった。傷つくなぁ」

「メイド服があるだろう。先なんて越してないよ」

「それはお仕事用だから着てくれてるんだよ。あれを着せる発想は……うん、そこは魔法使いさんに感謝してるけどね」

 ちとせは千夜に関して無理やり自分好みに染めることをよしとしない。自ら着飾るようになってほしいのだろう。お忍びモードでこっそりちとせのカーディガンを拝借した千夜だ、黒い服以外には持っていなくてもおかしくない。



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