白雪千夜「私の魔法使い」
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60: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:34:00.28 ID:ldlfMP+C0
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 アニバーサリーイベントの開催初日。快晴で残暑も厳しい中、会場では人の波が絶えず揺らめくほどの盛り上がりを見せていた。

 こっそりと様子を見に来たプロデューサーとしては、人混みに紛れて行動しやすいのはありがたい。この暑さでもスーツのジャケットを脱がずとも、そう目立つことはなさそうだ。たまに奇異の目で見られることはあるにせよ。

 メインステージでのLIVEが行われるまでの間、ちとせと千夜を含めた9人の選抜メンバーたちは売り子として物販を手伝うことになっていた。

 他のアイドルたちが企画した出店の商品も取り揃え、アイドルたちの個性をファンに届けようというのが目的らしい。商品数もさながら、アイドルが売り子となれば異様な行列も頷けた。

 ちなみに、ちとせと千夜が『Velvet Rose』として販売しているのはトマトドリンクだそうだ。深紅の薔薇を思わせる赤い液体を想像すると、ちとせにはいろんな意味でお似合いである。

 客の波に紛れて慎重に物販ブースに近付くと、ちとせと美嘉の声が聞こえてきた。合宿を経て仲良くなってくれているといいが。


「はぁ……暑いねぇ。少し休憩してもいいかな」

「ちとせさん大丈夫? 向こう日陰になってるしそっちいこっか?」

「ううん、ちょっとだけ美嘉ちゃんの血を分けてくれたら……頑張れるかも」

「アタシの血!? えっと、それって首筋に噛みついたりするやつ?」

「美嘉ちゃんは首筋がいいの?」

「よくないよくない! や、他ならイイって意味でもないよ!?」

「あは、可愛い♪ 美嘉ちゃん美味しそうなのに、ざーんねん」

「ちとせさんが言うと冗談に聞こえないから凄いよね……」

「ふふっ、安心して。日差しを浴びても灰になったりしないでしょ? ……焼けそうでちょっとつらいけど」

「正直初めて会った時、なっちゃたらどうしようかと思ってた。今日だってトマトドリンクとかチョー似合ってるし?」

「んー、でも本物じゃなきゃ夢を壊しちゃうよねぇ。美嘉ちゃんから血を貰うか、灰になってみた方がみんなを虜にさせられるかな」

「大事件だよ!? 後半は特にイベントどころじゃなくなっちゃうから……って、あ、はい! どれにし……え、血? 血は売ってませんし吸わせませんから! ちょっとちとせさーん!?」


 ……相性は良さそうだ。そういうことにしておこう。

 観客数は増していくばかりで、その場に留まるのも一苦労だ。むしろ邪魔になってしまっている。このまま一度流されるまま流されて、会場全体を見て回るのも一興か。
 千夜の様子が見られなかったのは仕方ない、また後で来ればいいかと人の波に身を任せようとした。が、

「500円になります」

 並んでもいないのに声を掛けられ、どんな押し売りが来たのかと振り返ってみると、そこには様子が見られなかったその人がいた。

「千夜……それって何の値段?」

「こそこそ隠れて来たかと思えば、挨拶も無しに去ろうとした者への罰です」

「そんなものまで売ってるのか……罪深いな俺」

「それはおま――ぷ、プロデューサー……の、日頃の行いが悪いからでしょう。改めてください」

 誰に聞かれているかもわからない状況で、さすがに大の大人をお前呼びするのは避けるべきだと判断したのか、苦渋に満ちた表情を浮かべながらのプロデューサー呼びだった。



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