白雪千夜「私の魔法使い」
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52: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:26:27.57 ID:ldlfMP+C0
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 事務所全体で開催される大規模なアニバーサリーイベントのとある企画、そこにちとせと千夜も加わることが決定した。

 いつもなら所属するアイドルから5人選抜してメインイベントやLIVEを披露するところ、今年は新進気鋭の新人4名を追加する運びとなり、その内の2枠にすべり込んだことになる。

 社内でもちとせと千夜が評価されているのは、プロデューサーとしてありがたい話だ。
 現在進行形で迷惑をかけ続けている傍ら、それぐらいやってもらわなければ、とのプレッシャーもないではなかったが。

「……静かですねぇ」

「もともと静かですよ、2人増えたくらいじゃ」

 事務所の自室で現状報告に来てくれたちひろと2人、仕事の手を休めてのんびりしていた。
 所属するアイドルのほとんどがイベントに向けて駆り出されているため、この部屋も1人で過ごす方が多くなった。そう感じるのは、2人がレッスンや仕事を抜きにしてもよくこの部屋で共に過ごしてくれていたからだ。

 間もなく選抜メンバーで合宿が行われる。時間があまりない中での効率よい合同レッスンや、即席グループであるため少しでも連帯感を築くためだ。

「寂しくなりますね」

「ずっとそうですよ。ちひろさんも含めて」

「あら、ありがとうございます♪ ……今年の年末って、どうされます?」

「……考えてはいますよ。あんなステージを見せてくれたら、あの2人ならやってくれるかもって」

 これもまた毎年恒例となっている、年末に他所の芸能事務所も交えての大掛かりなイベントがある。アイドルたちがLIVEパフォーマンスを競い合う大会、その新人戦に『Velvet Rose』として2人の出場を推薦しようと考えているのだ。

 その大会は、昨年受け持っていたアイドルたちが優秀な成績を持ち帰ってくれた代わりに、プロデューサーが重圧に耐えられず逃げ出すこととなった因縁もある。

「……いいんですね?」

 ちひろもそれを心配してか、語調に勢いはない。元通りとなることを望んでくれているちひろは、この時だけは押しが強くなるはずなのに、だ。

「今度こそ……やり直すことなく、高みにいけたら。俺がみんなに顔向け出来るようになるには、それしかありませんから」

 懐から、いつものように動かない懐中時計を取り出す。この事務所でプロデューサーとなり、みんなと出会ってからどれほどの時間が経っただろう。
 時を刻むことのない時計を眺めてもそれはわからないが、みんなと歩んできた記憶だけは鮮明に思い出せる。

 この時計を眺めている時はどうも思いつめた顔になるようで、アイドルたちからまた老けるよ、なんてからかわれたものだ。そのせいだろうか、思わず漏れていた失言をちひろが追究してくることはなかった。

 取り出した思い出を胸元にしまい込み、携帯電話を確認すると時刻は間もなくお昼時だ。

 ちとせと千夜には計9名となる即席グループに馴染んでもらうためにも、なるべく行動を共にするよう言いつけてある。他のアイドルたちとの接点がこれまであまりなかったこともあり、良い刺激になるはずだ。



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