芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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28: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:15:45.70 ID:hoMUvMIQo

 そうして空を眺めながら、雲は案外すごい速さで動いているのだという事実に思いを馳せ始めた頃、見慣れた藍色のセダンが事務所前に到着した。

 歩道と車道の間には一〇センチ程度の段差がある。
 こうして助手席の扉を開くたびに、もしかしてぶつかったりしないかなあ、と不安に思うけれど、いまのところは掠ったことさえ一度もない。
 きっと扉のほうがもう何センチか高いのだろう。
 だけど、そう分かってはいても気になってしまうのだから、こればっかりはどうしようもない。

 身体を屈めながら車内に潜りこむ。芳香剤の薄いバニラの香りが仄かに漂っていた。

「オッケー?」

 運転席のプロデューサーさんが言う。

「オッケーっす」

 私はシートベルトを締めながら答えた。

 直後、窓の外側が緩やかに流れ始める。
 身体は勝手にシートへ沈んでいく。大型の乗物が動き始める瞬間のこの感覚が、私は割と好きだったりする。
 慣性力、という名前だったっけ、たしか。一年生のときに授業でやったはずだ。
 物理は一応得意科目のつもりだけれど、現象そのものの名称にはあまり興味がない。
 ためしにプロデューサーさんに尋ねてみたら、慣性力で合ってるよ、との答えが返ってきた。




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