22: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:11:24.76 ID:hoMUvMIQo
私が確認を終えるのとほとんど同時に、ギィ、とやけに年季の入ったような唸り声が後方から、静まりかえった部屋の中央へ転がっていく。
その音を合図に私は無人のレッスンルームに背を向けて、それからプロデューサーさんの後を追いかけた。
空調の電源はすでに彼が切ってくれていた。
夏の陽気に照らされた廊下を進みながら、ずっと気になってたんすけど、と私は言う。
「あの扉、見た目は真新しそうなのに、妙に軋んだ音がするのは何なんすかね?」
「油が切れてるんじゃないのか」
「油?」
「潤滑油だよ。ほら、自転車とかのチェーンとかに差すだろ」
「あれって扉にも使うんすか」
「いや、知らない。でも、使うんじゃないかな。どっちも金属だし、多分同じようなものだろう」
「なるほど。言われてみれば、たしかにそうっすね」
話題の扉と全く同じ造りのそれらを横目に、私たちは道なりに歩いていく。
左手の壁を切り取った窓の先には、何階か建ての建物に忙しなく行き交う車の影、それから正午の空が映されている。
雲は遠く向こうのほうに薄らと見えるだけで、笑顔でいることを強制するみたいに、清々しいまでの快晴だった。
153Res/110.09 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20