芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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21: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:10:36.90 ID:hoMUvMIQo

 靴底が擦れるたびに、キュッ、とスタッカートの効いた音が鳴る。
 
 その音はここ以外だと、たとえば学校の体育館くらいでしか聞くことのできない、かなり珍しい類のものだけれど、私はこの摩擦音が身体に染み込んでいく感覚をそれなりに気に入っていた。
 ステップを一つ刻むたび、その音一つ分だけの質量が自分から欠け落ちるような、窓明かりに染まったこの部屋と同じ色に近づけるような、そんな気がするから。

「時間、大丈夫なんすか?」

 いち、に、さん、と足元が刻むスタッカートを頭の中で数えながら言った。

「大丈夫だ。いつも通り、一二時半まで借りてある」
「いつも通りに大丈夫じゃないっすね」

 鏡の前、いつもの立ち位置から扉脇に設置されたミキサーの前まではちょうど一五歩分。
 どうだっていいことだけれど、こうして何度も数えるうちに覚えてしまった。

 ミキサーを操作して、スピーカーの音量をゼロにする。
 それから繋いでいた音楽プレイヤーを取り外し、ジャージの右ポケットに滑り込ませた。

 最後に後ろを振り返って、部屋全体をぐるりと見渡してみる。
 窓際、ベンチの上、鏡の前。
 大丈夫。忘れものなんかは特になさそうだ。




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