小日向美穂「グッバイ、ネヴァーランド」
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81: ◆d26MZoI9xM
2019/12/16(月) 07:58:27.64 ID:sHF766Jg0
 五十嵐響子がどこにもいない。そのことに気付いたのは朝ごはんの時間になっても響子の姿が見えなかったから。あれだけご飯を作ることに楽しみの生きがいを感じていた彼女が何も残さずいなくなるなんておかしい。部屋の中にも入ったけど荒らされた形跡もなく、それどころか寝る前に飲んでいたのであろう少し残ったお茶のペットボトルがつい数時間前まで普通にいたことを示唆していた。

「響子ちゃん、どこに行ったんでしょう?」

「分からないけど……外、って事はないと思いたいな」

 夏の次には冬が来る。寮の外に出してくれないみたいに吹雪がビュービューと吹いていてとてもじゃないけど外に行ったとは考えられなかった。防寒具を身に纏ったとしても、あの痛々しいほどの白い世界に飛び込むのは自殺行為だ。

「私が悪かったのかな……」

「美穂……」

「みんな、いなくなってしまうんでしょうか。卯月ちゃんも、プロデューサーさんも!」

 そんな事ない! と口にする代わりに後ろから体を抱きしめる。

「何度でも言うよ。俺は最後まで君のプロデューサーだ」

 だから絶対に、君の前からいなくなってならない。

「……」

「……」

「……ご、ごゆっくりー?」

「わわっ! 違うの藍子ちゃん! カメラ向けないでー!」

 美穂は顔を真っ赤にして元気を取り戻して藍子とゆったりした追いかけっこをくり広げる。

「参りましたな、プロデューサー殿」

「ああ。他のみんなは?」

「響子殿がいなくなってショックを受けてますが……加蓮殿が何とか盛り上げようとしております。彼女たちのことは加蓮殿に任せておきましょう。後でフライドポテトでも揚げてあげましょうか」

 亜季もいつものように気丈な態度をってわけにはいかないみたいでやや顔に疲れが見える。

「亜季も休んでおきな。響子の手がかりは俺で探してみるよ」

「すみません、お願い致します」

 元気のない敬礼を残して亜季は自分の部屋に戻っていった。彼女のことだ、少し筋トレをすれば気分も晴れると思いたいが……。

「責任感じているのかな」

 響子がいなくなった理由はひとつ検討はついていた。口には出さずとも、亜季も薄々と感じていたのかもしれない。一度振り返ってみればはっきりしていたことだ。この世界に囚われているメンバーは、大きめのユニット活動や仕事で美穂と一緒になったことがある子達だ。つまり言ってしまえば。それぞれ横のつながりは薄くとも美穂を中心とした輪の中に入っていた。

 そしてそこから響子は弾き出された。いや、元の世界に強制送還されたと言うべきだろうか。



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