渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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18: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:20:53.18 ID:clFucneV0



学校最寄りの駅から電車に乗って、揺られること数駅。

乗り換えをしなければならない駅に到着する。

車掌さんのアナウンスが二度駅名を読み上げて、ぷしゅーという音を立てて扉が開く。

わらわらと電車の外へ出ていく人の流れに私も混ざった。

地方から来た人が往々にして迷子になるという、多くの路線が入り乱れるこの駅での乗り換えも、週に五回も利用したら慣れたもので、配置されているお店もなんとなく把握しつつあった。

なんとなく、こうやって大人になっていくのだという感じがして、自分で自分が誇らしくなりながら改札に定期をかざして、出る。

半端にどこにどんなお店があるのかを把握しているせいでクレープのお店などに足が向きかけてしまうが、気力で以て制し、目的の路線の改札を目指す。

そんなときだった。

背後から「あの」と声が投げかけられて、思わず振り返る。私に宛てたものでない可能性もあったけれど、なんだか振り返らなければならないような、気がしたのだ。

体を半分、回して背後を見やる。

そこには、スーツ姿の一人の男が立っていた。

まだ一週間しか経っていないのだ。

忘れられるはずがない。

例の一件で私の窮地を下心ありきとはいえ救ってくれたあの男、私をアイドルへとスカウトしたプロデューサーを名乗るあの男が、いた。

人違いを装うべく、咄嗟に視線を下げて足早にその場を去ろうとする。

しかし、どうやら完全に気付かれてしまっていたようで「待って」と追撃を食らってしまうのだった。

「……渋谷さん、ですよね」

違う、と言ってやるのは簡単だが、明らかにそれは苦しい。

私に取れる選択は全力で駆けて逃げ去るか、応対するかのどちらかしか残されていないみたいだった。

前者はもっとも楽で、手っ取り早い。

だが、この男に何らかの不都合がある可能性がある。

女子高生が全力で目の前から逃げていったとあれば、この男は周囲の人々に怪しまれてしまうかもしれない。

それどころか、場合によっては警察のお世話になることもあるかも。

一応は恩人であるので、それは避けたいところだった。

であれば、非常に不本意ではあるが、私が取れる選択は一つであるようだった。

「……そう、ですけど」

「ああ、良かった。駅のホームで電車待ちしてたら、入ってくる電車の窓から渋谷さんっぽい人が見えたもので」

停車前の電車とはいえ、それなりの速度は出ているはずだ。

そんな状況下で、この男は私を視認したというのか。もしかすると、化け物じみた動体視力の持ち主なのだろうか。

などと、突っ込みたいのは山々であったが、そうすれば話が長引くのは明白であるので、ぐっと堪える。

「それで、何か用ですか。アイドルの話なら、以前きっぱりお断りしたと思うんですけど」

付け入る隙を与えてはならない。

そう思って、冷ややかに対応を行うよう努めるとする。

「それはそうなんですが、でもでも、前回は詳しいお話もできませんでしたし、一度じっくりお話させていただけないですか」

申し訳ないけれど、そんな時間はないのだ、と伝えよう。

今度こそきっぱりと断って、私のことは諦めてもらおう。

決意を固めて、口を開く。



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