【けいおん!】梓「千変晩夏」
1- 20
41:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:16:45.51 ID:PR8wYl2Go
「ラッキー! ちょうど橋の端っこになったぞー!」
「りっちゃん、それは寒いよ……」
「わざと言ったんじゃないやい」
 そう言う内に、前を歩いていた先輩達の歩みが止まりました。ちょうど、何の妨げもなく花火を一望できる場所です。
「ごめん梓、何か言った?」澪先輩が再び私に尋ねます。
以下略 AAS



42:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:17:55.11 ID:PR8wYl2Go
「言わなくてよかった……」折角コンプレックスを払拭しようと頑張ってるのに、私の気の迷いで足を止まらせては申し訳が立ちません。自分の悩みを人に丸投げなんてしては、解決なんて夢のまた夢です。
「……チャンス、かぁ」
 その一語が、余計な重みを持ってのしかかってくるような気がしました。
 もし私に変わるチャンスが訪れても、それを受け入れることが出来るだろうか。
 ……ただ一人変わらずにいてくれている唯先輩にも、もしその日が訪れたら、私は笑って見送らなければならないのだろうか……


43:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:21:36.12 ID:PR8wYl2Go
「あーずにゃん」
「わっ」
 物憂げに星を見ていたら、空っぽになっていた右隣に、いつの間にか唯先輩がやってきていました。
「良かったぁ。一人で見に行っちゃうのかと思ったよ」
「そんなことしませんよ。花火は誰かと見た方が良いに決まってます」
以下略 AAS



44:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:23:12.51 ID:PR8wYl2Go
 二人とも無言のまま、花火は刻一刻と迫っていきます。心の中で手持ちぶさたを言い訳に、唯先輩の横顔を眺めました。
「……唯先輩は変わりませんね」
「えぇ〜そうかなぁ。私、大学生になったんだよ?」
「じゃあ何か変わったんですか?」
「えーっと……アイスを三口で食べれるようになった」
以下略 AAS



45:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:24:04.59 ID:PR8wYl2Go
「……あずにゃん、がっかりした?」
 唯先輩が不安げに私の方を覗き見ました。
「……何言ってるんですか。唯先輩はその方が良いです。唯先輩は、大学生になっても、ずっとそのままの方が良いです」
 つとめて明るいイントネーションで呟いたつもりでしたが、自信はありません。


46:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:25:33.99 ID:PR8wYl2Go
「あずにゃんがそう言ってくれるなら嬉しいよ」
 唯先輩はほっとため息をついて笑いました。
「私さ、ちょっと不安だったんだ。ムギちゃんはバイトを始めて、りっちゃんも澪ちゃんも他にやりたいことを一緒に始めて、私だけ何もかも高校生のままで、それでいいのかな、って。でも、あずにゃんがそのままで良いって言ってくれるのなら、それだけで安心だよ」
「唯先輩……」


47:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:27:22.86 ID:PR8wYl2Go
 それでも、少ししょんぼりしている唯先輩を見ていたら、いてもたってもいられませんでした。
「……きっと唯先輩はまだチャンスが来てないだけです。前に進みたいと思う、その気持ち一つだけで十分素晴らしいです!」
 少なくとも、時間に背中を押されて、ただ転ばないように前へ足を出しているだけの私なんかより、ずっと、ずっと……
「……あずにゃん、ありがとっ!」
「ぎゃふっ!?」
以下略 AAS



48:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:32:40.97 ID:PR8wYl2Go
「もう、離してくださいってばぁ」
「ダメだよあずにゃ〜ん。花火が始まるまでだよっ」
 そう言うや否や、どこかのスピーカーからざらざらした女の人の声が、後五分で花火が上がることを告げに来ました。
「あずにゃん、もうすぐ花火が上がるって!」
 パッと唯先輩の身体が離れました。
以下略 AAS



49:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:34:04.94 ID:PR8wYl2Go
 花火のしらせはやがて群衆のざわめきに変わり、それが最高潮になった瞬間、一つの大きな花にまとまり、ドンとお腹に響く音と共に空へ打ち上げられました。赤や黄色、緑や青、めいめいの花が咲いては消え、でも夜空を空白のままにしないよう、次々連なって昇っていきました。
 時には二つの輪が半分以上重なり合い、混じって派手な円模様と、多色混合の彩り豊かな火花が散り、かと思えば次の瞬間、二輪はどんどん離れて行き、ついには壁でも出来てしまったかのように、妙な距離が出来てしまいました。
 あぁ、もっと近づけたなら鮮やかな景色になるのに。寄せては返す花火の距離がもどかしくて、もっと、もっと右に行けたなら……。と思いながら、くい、くいと身体を右に傾けていたら、こつん、と右手が何かにぶつかってしまいました。何が当たったんだろうと右を向いた時、唯先輩と目が合いました。


50:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:35:47.46 ID:PR8wYl2Go
「あっ、ごめんなさい唯先輩」邪魔をしちゃったな、とすぐ悟りました。
 そう言うと、唯先輩はくしゃっと顔を崩して、さりげなく、まるでさっきからそこにあったかのように、自分の左手を、私の右手の中へ滑り込ませていきました。
「これなら邪魔にならないよっ」
 無垢な笑顔で私にそう言いました。
 私は返事代わりに、うつむくように頷いただけでした。


51:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:36:56.40 ID:PR8wYl2Go
 それでも唯先輩は満足げに笑って、再び夜空に目をやりました。私もつられて顔を上げると、右腕にとん、と唯先輩の肩がもたれかかってきました。
「あずにゃん」
 そう呼びかけられなかったら、私はまた横を向いて、何をしてるんですか!? なんて身構えたかもしれません。ただ、そんないつも通りを過ごすには、唯先輩の仕草が、私に語りかける、真剣な響き故に小さくなってしまった声が、それが私にしか聞こえない奇跡みたいな状況が、あまりに特別過ぎました。


63Res/30.46 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice