11: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:12:09.05 ID:rNK9Zl/t0
三船さんはキャンペーンガールの仕事をなんとかやり遂げ、「セクシーな見かけと恥じらいのギャップが初々しくてよかった」という、喜ぶべきか否かなんとも言えない評価をいただいた。
甘めの採点かもしれないけど、初仕事は成功と言っていいのではないだろうか。
「本当に、恥ずかしかったです……。見苦しくなかったでしょうか」
「台本も飛ばず、受け答えもちゃんとしてました。大変だったはずなのに、しっかりできてましたよ」
帰り際、約束通り彼女の話を聞いていた。
それくらいなら頼まれるまでもないのだけど。何か他のことを頼まれてもいいと申し出たら、これがいいんです、と断られてしまった。
それくらいの成果は出したというのに、無欲なものだと思う。
僕の言葉に、三船さんはゆるゆると首を横に振った。
「打ち合わせも、リハーサルも、丁寧にしてくださったおかげです。……どうにか、なってしまうものですね」
「はい、それに、三船さんの努力のたまものです」
「プロデューサーさんに、そう言っていただけると……ほっとします」
彼女の口元が嬉しそうに緩んでいるのを見て、僕まで嬉しくなる。
恥じらう顔もそうだけど、少し前までは見られなかった表情を、三船さんは見せてくれるようになった気がする。
これが、アイドルとして活動することで彼女に生じた変化だとしたら。
僕はきっと、僕の責任を少しくらいは果たせているんだろう。
そのことに、安心とともに胸の奥でうずくものを感じるのだ。
「……プロデューサーさん、聞いてますか?」
「え、ああ、はい。……ええと」
「もう……。次のお仕事も、上手くできるでしょうか……って、言いました」
生返事をして言葉に詰まると、三船さんはたしなめるように薄く笑う。
僕は「すみません」と決まり悪く笑いながら、考え事を切り上げた。
「きっと、上手くいくと思います。引き続きサポートしますから、頑張っていきましょう」
「はい。……でも、もう当分はこういう衣装、やめてくださいね……?」
「……これで最後、じゃなくていいんですか?」
初対面のときに聞いた言葉を引き合いに出した僕を、三船さんは非難の意を込めた瞳で見つめる。
眉を下げて、ほおをふくらませて。
「……いじわる」
「っ……す、すみません」
それから事務所に戻るまで、僕は彼女の顔をまともに見ることができなかった。
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