三船美優「最後にキスをして」
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10: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:11:05.95 ID:rNK9Zl/t0



「三船さーん、準備、大丈夫そうですか?」

「え、ええっと……もう少しだけ、待ってください……」

 困ってしまった、という様子をひしひしと感じさせる声に、トラブルでもあったのかと考え込む。
 三船さんのアイドルとしての初仕事、キャンペーンガールの衣装に着替えるべく更衣室に入った彼女は、随分経ってもそこから出て来ずにいた。

 足りないものがあったとか、採寸にミスがあったとか、原因は色々と思い浮かぶが、今この場では確かめようがない。
 何があったのかを聞いてみても、口ごもってしまって事情がわからなかった。

「ぷ、プロデューサーさん、周り、人、いませんか?」

「……? はい、ここにいるのは僕だけですけど」

「そ、そうしたら、入ってください……」

「え……? い、いやいや、入って大丈夫なんですか?」

「大丈夫、ですからっ……。誰か来る前に、早く……!」

「わ、わかりました。失礼、しまーす……」

 尋常ではない様子に押されて、ためらいながらも更衣室の扉を開ける。
 部屋の中に入ると、ばたん! とすごい勢いで扉を閉められた。

「み、三船さん?」

「プロデューサーさん、私、変じゃ、ないですか……?」

 そう問うてくる三船さんは、顔を気の毒なくらい真っ赤に染めて、両腕で身体を抱き、露出したお腹を隠すようにしている。
 丈の短いノースリーブに、ショートパンツからのぞく透き通るような肌がまぶしい。彼女の困り顔も含めて、目のやり場に困る光景だった。

「へ、変って言うと……?」

「こ、こんな大胆な衣装だなんて、聞いてなくて……。だらしない身体では、ないと思ってますけど、こんな服を着る歳じゃないし、恥ずかしいですっ……」

 確かに今回の衣装は着る人の肢体やお腹を惜しげもなくさらけ出す露出度の高いものだ。
 けれどキャンペーンガールというのは得てしてそういうもので、彼女も了承しているものだとばかり思っていた。

「ええと、つまり……衣装を着たはいいものの、恥ずかしくて出られなくなってしまった、と?」

「…………はい。あの、どうしても……この衣装で出なきゃ、ダメなんですよね……?」

「……すみません」

 ただただ平謝りしかできそうにない。
 打ち合わせの時から、三船さんは人前に出るということに自信を持てずにいる様子だった。
 だというのにこんな追い打ちをかけてしまうことになるなんて。

 恥じらいにほおを染める彼女を見てしまうことが、途方もない罪悪のように思えて目を合わせられなかった。
 その態度が誠実なものだとは思えなかったけど、じゃあどうするのが正解だというのか。

「プロデューサーさん、お願いがあります……」

「……はい」

「私を、見てください。プロデューサーさんにどこも変じゃない、って言ってもらえたら……がまん、できると思いますから」

「いいん、ですか?」

 頷く気配を感じて三船さんに視線を戻すと、彼女は身体を隠していた両腕を、捧げるようにゆっくりと開く。
 緩慢な所作と対象的に、僕の心臓はばくばくとせわしなく、そしてうるさい。

 露わになったその姿を、改めてじっと見つめる。
 なだらかな流線型を描く身体のラインも、日に焼けていない透き通る肌も、唇を引き絞って耐えるように目を伏せるその表情すらも、どうしようもなく魅力的だった。

 薄々分かってはいたことだけど、露出の多い衣装を身にまとうと、三船さんのスタイルの良さと肉づきの……いやいやいやいや。

「み、三船さんの身体は、間違いなく綺麗です……! 僕が保証します、なので、ええと……」

 思考がおかしな方へ行ってしまいそうで耐えられず、情けない声とともに三船さんを視界から外した。
 彼女のそれが伝染したかのように、やたらめったら顔が熱い。

「本当、ですか?」

「本当です。こんなことで嘘は、つけません」

「わ、わかりました……。私、頑張りますから……」

 彼女はそこで言葉を切り、意を決するように一呼吸を置いて、続けた。

「終わったら、いつかみたいに話、聞いてください」


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