三船美優「最後にキスをして」
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9: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:09:56.85 ID:rNK9Zl/t0
「お前それ、オーディションに来た子じゃないだろ」

「ご明察ですけど、よく分かりますね」

「つまり、スカウトしてきたってことだ。ヘタレなお前が。それで、実際来てくれるのか気になって集中できなかったと。なるほどなるほど」

「……そうですよ。悪いですか」

「ああ、悪い」

 即答で、驚いた。開き直ったことをたしなめるでもない直球。
 先輩を見やっても意地悪く笑っているのはそのままで、真意がつかめない。

「いやあ、前々からお前の好みはそっち系だろうなと思ってたんだ。そしたら案の定だったな」

「……はい?」

「担当アイドルに手、出すなよ?」

「出しませんよ!」

「はは、でけー声出たな」

 無言で先輩を睨む。
 悪びれる様子もなく「悪りぃ悪りぃ」とけらけら笑う先輩には、しばらくの間非難の視線を送り続けることにした。

「しかしお前も難儀なことしちまったなぁ。惚れた女をスカウトするとは。……いや、口説く方がお前には無理か」

「僕が惚れてるのは先輩の中で確定なんですね」

「違うのか?」

「…………」

 まあ、正直なところ。考えないようにしているだけで、先輩の言う通りなんだろう。
 だからこそ、僕はちゃんとしないといけないのだ。

 だって、社会人として人生を歩んでいた人を、アイドルの世界に引き込んでしまったのだから。
 その責任くらいは、持たなきゃいけない。

「まーヘタレなお前だから妙な気は起こさないと思うが。愛想尽かされて逃げられないようにだけ気をつけろよ」

「やめてくださいよ、縁起でもない。あとヘタレって何度も言わないでください」

「違うのか?」

「…………」

 先輩は笑い続け、僕はグラスに残ったレモンサワーを一気に飲み干す。結露した雫がぽたぽたとズボンに落ちた。
 そして、二杯目は先輩と同じくビールを頼むことにした。

 こうしていつも、そこそこ酔って帰ることになるのだ。


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