春を売る、そして恋を知る
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9:名無しNIPPER[saga]
2019/08/19(月) 00:06:09.97 ID:wMUcUiBSO
彼女が甲斐甲斐しく食事の準備をしてくれている間に、私もメイクを終了させた。よし、と満足をしてメイクボックスの箱を閉じると、ユズさんから「ナイスタイミング!」と声をかけられた。

「さ、食べましょ」

今日のサンドイッチはたまごサンドとBLTという定番のものだった。私たちの部屋にはそれぞれキッチンも備えられているけれど、自炊をしている人たちがどれほどいるのかは分からない。私だって、ユズさんがこうしてお茶を淹れてくれる以外にはキッチンを使ったことがない。

手料理を作ってくれる唯一の存在で、オーナーが父親代わりならユズさんは母親代わりみたいなものだ……と以前話したら、「私はそんな歳じゃない!」と怒られたものだ。

「うん、美味しい」

「でしょう! レタスはね、私が育てたのよ」

話を聞くと、どうやら室内の水耕栽培で育てたらしい。お客さんを招き入れる部屋でよくもまぁ、と思いはすれど、それは口にせずに素直な感想だけを口にした。

「やっぱり、ユズさんの料理が一番だね。優しい味がする」

「そんなこと言ったって、レタスしか出ないよ?」

あはははは、と笑いながら食事を進めていくとあっという間にランチボックスは空になった。外出のできない私たちの楽しみは、ほぼ全てが食になっていると言っても過言ではない。

「ご馳走様でした」

二人で手を合わせると、ユズさんがわざとらしくため息をついた。

「華の十代に、若い美女の二人の楽しみが食べることだけなんてね……」

「良いじゃん、私はユズさんの料理食べてるときが一番幸せだよ?」

「嬉しいこと言ってくれるじゃなーい!」

オーバーリアクションで私の両肩をつかんで揺らしてきた。危ない、お茶こぼれるからね。


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