春を売る、そして恋を知る
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20:名無しNIPPER[saga]
2019/08/20(火) 00:05:09.04 ID:MEC1zLhn0
「なるほどタルト……どんなのが好きとかあるの?」

奉仕をしようとした時よりも嬉しそうに、彼は問いを重ねてきた。

タルトについてなら、いくらでも語ることができる。理想の生地感、甘さ、フルーツタルトなら何が良いか。

ユズさんじゃないけれど、私にとっての楽しみはそれくらいなのだ。

「へぇ……勉強になった。ありがとう」

「初めてこんなにタルトについて説明したよ」

お客さん相手に、ついため口になってしまう程には熱中していたらしい。慌てて言葉を付け足した。

「いえ、すみません」

「何が?」

今度は彼が戸惑った。説明をすると、「いいよため口で。敬語の方が嫌だ」と求められた。

それからも、彼は私に色んなことを聞いてきた。休みの日は何をしているのか、本を読むのは好きか、どんな映画をよく見るのか。自分でも理解していないことを訪ねられると、私が結論を出せるまで彼は黙って待ってくれた。

彼自身のことは何も話さず、ただ私のことを知りたがった。

他のお客さんとも、もちろん行為以外に会話もする。でもその内容は殆どが自慢や愚痴と、彼ら自身に関わることで、私のことを知りたがる人はあまりいなかった。

結局、彼は私に指一本触れることがないまま、時間を迎えようとしている。


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