春を売る、そして恋を知る
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19:名無しNIPPER[saga]
2019/08/19(月) 23:49:10.73 ID:NFiIwucU0
「したいわけじゃ……ないけど」

「じゃ、良いじゃん」

そして彼は再びビールの缶を手に取り、ぐっと煽って飲み進めた。どこか無理をしているように見えてしまうのは気のせいだろうか。

「えーと……まどかちゃん、は、何、えーと、好きなこととか趣味とかあんの?」

やたらと途切れ途切れな言葉を不審に思って彼の顔を見ると、もう真っ赤になっていた。酔っ払ってしまうには早すぎる気もする。お酒に弱いのであれば、ビールなんて飲まなければ良かったのに。

自分の趣味を改めて考えてみると、これだということが特に思いつかない。そもそも、ビルの外のことを知らなさすぎる。化粧品はユズさんに教えてもらったもの、服は買っても見せる相手がいないし出かけられない、携帯やスマートフォンは不要だと持たせてもらえない。

要約すると、趣味らしい趣味は思いつかなかった。

「趣味……うーん……」

「無いなら何かさ、こう、あの、好きなこととか、好きなものとか」

好きな人、であればユズさんとすぐに答えられるのに。たまにユズさんと見る映画やドラマは面白いけれど、見ているときよりも感想を話し合っている時の方が好きだし。

好きなこと、好きなものと考えていると、不意に言葉が漏れた。

「……タルト」

「は?」

訝しげに、彼は疑問を投げ返した。

「エッグタルトが好きなんです。甘いやつ」


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