双葉杏「透明のプリズム」
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78: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:54:28.54 ID:OJA0wgUK0


彼は、私に「戻ってきてほしい」と言いたくなかっただけなのだ。


彼の中にある踏み越えてはいけない一線が、「戻ってきてほしい」という言葉を言わせなかったのか。
あるいは、大人の持つプライドがそれを許さなかったのか。
いずれにせよ、彼は自分の意志を隠す意味で、「もしもの話」をした。

そしてそれは、私に捻じ曲がって伝わった。
――私にはまるで、プロデューサーから別の選択を迫られているように思えたのだ。


彼が提示したつもりになっていた選択肢は、「はい」か「いいえ」の二択だ。
しかし私はこれを、「プロデューサーのところに戻る」か、「今のプロデューサーのところに留まる」の二択だと解釈した。
この二択は、一見すると違いがない。
実際に、選択肢の内容は同じことを指している。

しかし、選択する側にとって、このふたつの問題には大きな隔たりがある。
なぜなら、肯定の選択と否定の選択は対等ではないからだ。


私だって、戻ってきてほしいと言われていれば、彼のところへ戻る気持ちを強くしただろう。
否定することには勇気が必要だし、私の頭の中にはちゃんと、「プロデューサーのところに戻りたい」という意志があった。
肯定をしない理由がない。

しかし、そのふたつの選択肢が対等に提示されたら?
選択には、常に程度の概念が付きまとうこととなる。
現に私は、プロデューサーのところに戻りたいと思う気持ちと、今のプロデューサーのところに留まりたいと思う気持ちを水平的に比較して、その程度を根拠に選択をしようとしていた。

それに、対等な二つの選択肢から一つを選ぶのに、否定するための勇気は必要ない。
一つを選べばもう一つを否定することになるわけだけれど、それはどちらを選んでも同じなのだ。
否定することを仕方のないことと割り切れるのなら、簡単に踏ん切りがつく。




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