双葉杏「透明のプリズム」
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79: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:54:59.82 ID:OJA0wgUK0


結局は、彼の思惑通りには物事が進まなかった、という話だ。
そしてそれの直接的な原因になったのは、彼の独善的な感情――私に、「戻ってきてほしい」という言葉すら言えない、彼のちっぽけなプライドのせいだ。

笑ってしまうような結末だ。
でもこう考えれば、色々なことに説明がつく。

例えば、彼が「もしもの話」をした日。
彼は最後に、「もしもの話だけどな」と言っていた。
あれは体裁を保とうとする形式的な言葉などではなく、「まだ確定じゃないけど」という意味の、万が一私がプロデューサーのところへ戻れる権利を失ってしまったときの、逃げ道の確保のための言葉だった。

彼の予想以上の動揺にも今なら納得がいく。
あのとき彼は初めて、自分が提示したはずの選択肢と、私が解釈した選択肢が異なっていることに思い至ったのだから。
きっと彼は、自分のしでかしたミスを認めたくはなかっただろう。
認めたくはなくて、でも認めざるを得なかったからこそ、諦念と不甲斐なさの入り混じった表情を浮かべていたのかもしれない。


「私はね、プロデューサーが何を考えてたか、知ってるんだよ」

「プロデューサー、言ってたよね」

「言わなきゃ、分からないんでしょ」

「杏にあんなことまで言わせておいて、自分だけ言わないってのは、ずるいよ」


だから、これは罰なんだ。
自分だけ逃げようとしたことへの、罰だ。
私には内心を打ち明けさせておいて、自分だけそれを回避しようとするのは、あまりに都合が良すぎる。


プロデューサーは何も言わなかった。
否定も肯定もせずに、ただ沈黙を貫いていた。
何の反応もないことは、私の仮説が正しいことの何よりの証拠だった。




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