62: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:44:15.39 ID:OJA0wgUK0
☆
リュックサックとオレンジ色のキャップと赤い眼鏡。
私の変装は常にこうだった。
変装するという行為は自意識が過剰な気がして、あまり気が進まない。
しかしプロデューサーから変装をしろとしつこく言われるので、休日に出掛けるときはいつも最低限の変装を身にまとっていた。
たまたま私とプロデューサーの休日が重なったので、私たちは時間を合わせて出掛けることにしていた。
私も彼もほぼ同じ時刻に駅に到着し、落ち合ってすぐに正面に見えたレストランに入った。
私は、彼に例の件について問い質すことに、この日一日を使うことにしていた。
彼にとっては何ということのない一日になるはずだったことを考えると、優越感や充足感に似た感情が刺激されるのを感じた。
私はこの日に、彼を遣り込める算段を立てていた。
「プロデューサー」
私たちは窓際の四人席に通された。
目の前に座るプロデューサーは穏やかに口元を綻ばせている。
対する私は、これから彼がどんな反応をするのかについて思いを馳せ、ほくそ笑んでいた。
私はこの状況を目いっぱい楽しむつもりだ。
目の前にいる彼の、知的な眼差しや、飄々とした態度。それが歪むのを想像してみる。
――当時の私は、彼に子供として扱われているのを気に食わなく思っていて、何とかして見返してやろうという欲望に駆られていた。
「例の件の話なんだけど、ほら、もしもの話の」
「ああ、あれね。あの件なら――」
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