61: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:43:40.14 ID:OJA0wgUK0
その後、彼から聞いた話ではこうだった。
二ヶ月後、私は元のプロデューサーの担当へと戻る。
今のプロデューサーの部署には、おそらく新しいアイドルが迎え入れられることになる。
元のプロデューサーは、今担当しているアイドルの子たちと私を同時並行で担当することになる。
それだけなら、まだ良かった。
誰かの意向でそういう風に決まってしまったのなら仕方がなかった。
せっかく練り上げた結論を捨てることにはなるけれど、黙って決定事項に従うだけだ。
ところが、思い出してみてほしい。
――私が元のプロデューサーの担当に戻るか否かについては、元のプロデューサーに一任されていたんじゃなかったか?
つまり、私に選択を促したにもかかわらず、当のプロデューサーは、私が彼を選ぶことを当然としてことを進めているんじゃなかろうか?
私は今のプロデューサーに、誰からの情報なのか尋ねてみた。
――もしこれが例えば会社の上層部の誰かから仕入れた情報なのであれば、元のプロデューサーに選択を一任するのが無かったことになっただけの可能性もある。
既にプロダクション全体にまで彼が外堀を埋めている可能性も無きにしも非ずではあるけれど、そんなハイリスクな行動を彼が取るとも思えなかった。
今のプロデューサーからの返答は、果たして「元のプロデューサーから」との答えだった。
九割方、確定だ。
彼は、私が彼の担当に戻るという選択肢を選ぶことを前提として動いている。
この事実に思い至った私は、何というか、ずいぶんとあっけらかんとしていた。
本来なら、怒りだとか、あるいは気味の悪さだとか、そういう感情を抱いて然るべきだったと思う。
彼は私の先回りをして、私の心を読んだつもりになっていたのだから。
でも私は、彼が私の心を読もうとしていたことを、大して気に留めなかった。
私の興味を引いたのは事実そのものではなく、それに至った根拠だった。
どうしてプロデューサーは、私の選択を決め打ちして動いていたのだろうか?
やがて私は、ひとつの仮説に辿り着く。
――その瞬間、邪な感情が舞い降りた。
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