双葉杏「透明のプリズム」
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27: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:18:55.66 ID:OJA0wgUK0


さて何をしてもらおうかと少し考えたところで、私は、具体的な埋め合わせの内容が思いつかないことに気付いた。
プロデューサーと一緒に居られれば、埋め合わせが何であれ、それで充分だったのだ。

その自覚が芽生えた瞬間、私は急に気恥ずかしくなって、そういう類の心情を抱いたときに膨れ上がる熱に全身を支配されてしまった。
なんせ私は当時まだ十七歳だったのだ。
そういうお年頃だったから、そういう種類のよくある微熱に浮かされるのも無理からぬ話だった。
さっきまでの調子はどこへやら、私の様子は一変する。顔を見られまいと寝返りを打ち、「まぁ、何でもいいよ」と誰に対してでもなく呟いた。


「急にどうしたの」

「その、何というか、飽きたんだよ」

「さっきまでめちゃくちゃ拗ねてたのに」

「別にそんなに拗ねてないよ」

「拗ねるのも面倒になったのか」

「最初から拗ねてなかったんだってば」

「え、そうなの?」

「アメなんていくらでも貰えるし」


背後から、「気付かなかった」だの「本気で怒らせちゃったかと思った」だの、そういう言葉が投げかけられる。
一方の私の頭はさっきの自覚のことでいっぱいで、プロデューサーと会話をする余裕なんてまるで生まれなかった。
うさぎのぬいぐるみに顔を思いっきり押し付け、目を閉じる。
うさぎは埃っぽい香りがして、でもそれはかえってありがたいことのように思えた。




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