26: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:18:23.75 ID:OJA0wgUK0
☆
「思いのほか、みんなが飴を消費しちゃって」
その日は初めてプロデューサーの部署の部屋を訪れてから一週間が経過した日だった。
プロデューサーがこの曜日のお昼頃にここで仕事に勤しんでいることは知っていたし、むしろそれ以外の時間帯にここにいる確証が無かったから、私は一週間後のこの日にプロデューサーの部署を訪ねることにしたのだ。
木のお皿は空になっていた。
あんなにうず高く積み重なっていた飴玉の山が忽然と姿を消したのは、どうやら新部署のアイドルの多さに起因するものらしい。
恐るべし女子高生のパワー、とプロデューサーは意味不明なことを繰り返し呟いていた。
「こうなるんだったら、杏のぶんを確保しておくんだったよ」
「せっかくアメを貰いに来たのに」
口では不満を垂れながらも、実際のところ飴の供給は充分間に合っていたわけで、私はほとんど冗談のつもりで拗ねたふりをしていた。
ところがプロデューサーは私が本気でいじけていると思ったらしく、申し訳なさそうに平謝りをしていて、それが私の嗜虐心めいた感情を刺激した。
「あーあ。杏、何しにここに来たんだろ」
恨みのこもったような言葉を漏らすと、私の予想通り、プロデューサーは焦った様子で、解決策や折衷案を考え出そうとしていた。
ソファーに横たわってうさぎのぬいぐるみを枕にしながら、プロデューサーをじいっと睨むように眺めていると、しばしの沈黙の後、プロデューサーは「埋め合わせをさせて欲しい」と切り出した。
私の都合のいい方向に状況が転がっていくのが面白くて、私はさらに調子づく。
「埋め合わせかぁ」
「何でも、ってわけにはいかないけど」
プロデューサーは視線を下に泳がせる。
私は何とも思っていないのに、プロデューサーは判決を待つ囚人のような、深刻な顔つきをしていた。
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