双葉杏「透明のプリズム」
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28: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:19:55.51 ID:OJA0wgUK0


「どうしたのさ、急に静かになって」


私は無言を貫いた。
プロデューサーは、充電が切れたようにあまりにも突然動かなくなった私の扱いに困っているようだった。
どうしたものかとその場をうろうろしているのが分かる。
私は何も出来ずに、ソファーの上で眠ったように固まっていた。
そうやって私はプロデューサーが行動を起こすのを待っていたのだ。


プロデューサーの足音が近づいてくる。
心臓の刻む音は分かりやすく速まっていく。
近づいて来て欲しくなくて、でも心のどこかでは、プロデューサーが私のもとにやってくるのを期待していた。

私は何かから逃げるように、必死にうさぎに顔を押し付ける。
具体的に何から逃げようとしていたのかは、はっきりとしなかった。


「なぁ」

「……何さ」

「どうしたんだよ、突然」

「どうもしないよ」

「どうもしないってことはないだろ」

「どうもしないんだよ」

「やっぱり、拗ねてるんじゃないか」

「拗ねてないんだってば」


埒が明かないと思ったのか、プロデューサーはそれっきり言葉を発しなかった。
――自分から強引に私の心をこじ開けるのではなく、私が自分から話を切り出すのを期待していたのだろう。
そのときの私はひどく意固地になっていて、そういう態度をとられればかえって相手の期待する態度をとりたくないような、そんな気分だった。
相手の思い通りに動くのは、強制されているようで、嫌だった。
当時の私はそれだけ子供だったのだ。




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