29: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:20:46.61 ID:OJA0wgUK0
プロデューサーは私が思うところ――具体的にはどうして拗ねていたのかだとか、どうして突然拗ねるのをやめたのかだとか――を打ち明けるのを待っていた。
膠着状態の打破のためには、私が口を開かなければならなかった。
うるさいなぁ。
放っておいてよ。
私は本来、自分から話を始めるという選択をしなければなかなかった。
何をどう話すかという無数の選択肢の中から、ひとつを選ばなければならなかった。
選ぶのは、疲れる。
だから、私は逃げた。
ソファーからむくりと立ち上がって、視線を落としてドアへと向かう。
その間プロデューサーの視線は私をずっと貫いていた。
顔を窺うことは出来なかったから、プロデューサーがどんな顔をして私を見ていたのかは今でも分からない。
プロデューサーは、感情のひとつも心の檻から漏らさずに、ただ私を静観していた。
ドアノブに手をかけて――それでも私は、ドアに向かって、ひとことだけ言葉を発する。
「じゃあね」
この言葉が口から出たことに大した理由はない。
私にとってはただの挨拶のつもりだった。
しかしこの言葉は、ここから先一週間の私を苦しめることになる。
何の気なしにこの言葉を口にした瞬間の私は、そんなことにも気付けないでいたのだ。
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