双葉杏「透明のプリズム」
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23: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:15:55.63 ID:OJA0wgUK0







広い部屋だった。
私がその部屋を広いと感じたのは、単純に面積が広いというのもあったけれど、それ以上に置かれている物が少なかったからでもあったと思う。
デスクで場所をとっているものは画面の大きなパソコンとファイルの棚、充電されているタブレットぐらいのもので、プロデューサーの持ち前の片付け無精は鳴りを潜めているらしかった。

部屋全体を見渡してみても、デスクの上にあった小さな棚とは別の、いかにも本棚らしい本棚と、ローテーブルに黒いソファー。
部屋の領域は完全に持て余されていたし、そのくせ天井も高かった。


「これでもね、アイドルの子たちがやってくるとね、結構狭いものなんだよ」


プロデューサーは新部署で、少なくない数のアイドルの子たちの担当をしているらしかった。
私を担当していた時代は私一人の専任だったのだから驚きだった。
とはいえ本人は、担当するアイドルがひとりのときと大勢のときでやることの量は大して変わらない、と言っていた。
今はユニットの活動がほとんどだから、車に大勢を乗せて送迎するだけでいいけど、ソロ活動が増えていくと個別に車を出さなきゃいけないから大変なんだろうな、と他人事のように呟いてもいた。



「飴がね、余ってるんだ」


プロデューサーはデスクの引き出しから飴の大袋を取り出す。
テーブルの上にあった木製のお皿に、飴玉を全て流し込んだ。
このまま飴玉を放置しておけば、アイドルの子たちが勝手に数を減らしていってくれるだろう、という算段らしかった。
プロデューサーは飴玉の小袋をお皿に移し替えただけで何も言わないので、私はどう返事したものかと考える。
考えて、結論を声に出す。


「ね、ひとつ貰ってもいい?」


ゴミ箱に飴の大袋を捨てていたプロデューサーの背中に言葉を投げかける。
彼が否定するわけがないことは分かっていた。挨拶みたいなものだ。

飴玉の山を形作っている袋のひとつひとつをじっくりと眺める。
メロンにレモンといったスタンダードなものから、スイカやジンジャーエールだとかいうような変わり種まで、味を想像してみて、吟味する。





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