双葉杏「透明のプリズム」
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22: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:14:50.43 ID:OJA0wgUK0


「……元気?」

「ああ、上手くやってるよ」


結局私は、とにかく会話を繋げる方針へと舵を切った。
それからは、花粉症がひどいとか、仕事が忙しいとか、そういった類の凹凸のない世間話が続いた。

でも話題の数はたかが知れていて、会話には不自然な隙間が生まれ始める。
いよいよ話すことが思いつかなくなると、私たちはまるで突然記憶を失ったかのように、会社の廊下で向かい合って立ち尽くすばかりだった。
私たちは誰に見られているわけでもないのに、不自然な会話を避けようとしていた。
正常に成立した会話を目指す心理が、かえって異常な状況を作り出していた。

そんな状況下で、沈黙を破ったのはプロデューサーだった。


「そうだ」


プロデューサーは金属のドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを押していく。


「せっかくだし、中で話そうよ」


せっかくだし。
何がどうせっかくなのかは知らないけれど、私の身体を部屋へと向かわせるには十分な言葉だった。




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