双葉杏「透明のプリズム」
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21: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:14:15.17 ID:OJA0wgUK0


プロデューサーは私の叫び声を皮切りに大笑いを始めた。
性格が悪いよ、と拗ねると、プロデューサーは開き直って、知ってるよ、と返した。

――久々に聞いたプロデューサーの声が、確かな熱を帯びて、乾涸びた私の心の隅々に広がっていく。
驚きのあまり地面に落としてしまったうさぎのぬいぐるみを拾い上げ、うさぎに付着した埃を軽く払って、プロデューサーと向かい合う。

彼も私も、見た目に大した変化はなかった。
プロデューサーは相変わらずよれたスーツを着ているし、私も左手にはうさぎのぬいぐるみを持って、いつものTシャツを着ていた。
時として外見の変化は中身の変化に比例しないことを、私はよく心得ていた。


「久しぶりだな」

「プロデューサー」


上手くやってる?
新しい子たちとはどう?
ネクタイ曲がってるよ。
スーツ、新調した方がいいんじゃないの?
髪、伸びたね。


頭の中には、幾多もの選択肢が浮かんでいた。
だけどどれひとつとして声に出すには相応しくないような気がして、私は言葉を続けることができなかった。
無数の選択肢があって、そのうち正解はせいぜいひとつかふたつ。
――コミュニケーションなんて、所詮そんなものだ。

口ごもっている私に、プロデューサーは尋ねる。


「……どうかしたのか? なんか用事とか?」


私は、あのなぞなぞの答えを知りに来た。
でも、そのためにわざわざプロデューサーのところに来たと思われるのは、子供っぽいと馬鹿にされそうで嫌だった。
今思えば子供っぽいとかを気にしている時点で充分子供っぽかったのだけれど。
とはいえ、当時の私は、そもそも実際に子供だった。

なぞなぞの答えを知るためには、それとなく会話をその方向に誘導する必要があった。
当時の私にはそんな技術はなかったし、いきなり緑色の空の話を切り出すのに必要な勇気も持ち合わせていなかった。




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