20: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:13:30.69 ID:OJA0wgUK0
☆
時間の猶予が欲しいときに限って、エレベーターはてきぱきとやってくる。
手を伸ばして数字の7を押し込むと、エレベーターは、我関せずといったそぶりで、上空に向かってぐいんと加速する。
あっという間に7階へと私を連れていくと、私を吐き出したエレベーターは扉を閉ざし、淡々と一階へと向かっていった。
『一階下の、エレベーターを降りて右の部屋』
同じフレーズが何度も何度も頭の中で反響する。
7階にひとり閉じ込められた私は、無理やり足を右方向に向かわせた。
廊下は閑散としていた。
エレベーターの前を右に折れた先に、金属製の簡素な扉が見えた。
すりガラスからは白色の光が漏れていて、電気が点いていることが窺える。
想像よりも素っ気なかったらどうしよう。
笑われないかな。
何しに来たの、って言われるんだろうな。
私は想像に憑りつかれる。想像上のプロデューサーが、私を苦しめる。
ずっと左手に持っていたうさぎのぬいぐるみを、両の手で抱きしめてみる。
深呼吸を2回。それから、無意味に伸びをしてみる。
大きく息を吸い込んで、目を閉じる。
金属の扉をノックした。
反応はなかった。
もう一度、気持ち強めにノックしてみる。
やはり反応は無い。
ドアノブを握る。
ひんやりとしたそれを、右周りに回転させ、ドアを押す――
「どうかした?」
「ひっ」
プロデューサーが、背後に立っていた。
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