20: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:38:13.29 ID:k2me14jR0
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電車を降りて、いつもの道順で事務所を目指す。
せっかくのオフだというのに、私は何をしているのだろうと、何度か冷静になりかけたが、その度に「これは忘れ物を取りに行くだけである」と自分に言い聞かせた。
そのようにして、うだるような暑さの中辿り着いた事務所は、玄関からこれでもかという程に冷房が効いていて、天国のように感じられる。
さぁ、忘れ物を取って、少しだけ休憩したら次はショッピングだ。
ひんやりとした心地の良い空気を全身で味わいながら自分のロッカーへと向かう。
その途中で、デスクでお仕事中の私の担当プロデューサーが視界に入った。
今日は事務所にずっといる日なのかな。
今は忙しいだろうか。話しかけても平気だろうか。
廊下からオフィスの様子を窺う。
彼は左手を顎に当て何か考え込むようにしてモニターを覗き込んで動かない。
これはどうだろう、声をかけても大丈夫かどうかの判別が難しい。
まぁ、「お疲れ様です」の一言くらいならお邪魔にもならないか。
そう判断した私は、彼のデスクへと向かう。
十分声が届くであろう距離まで近づいて「プロデューサー」と言いかけたところで、彼のスマートフォンが鳴った。
一コール目で彼はその着信を受け、はきはきとした声で受信時の定型文を言ったあとで「それで……どうでした?」と電話先に聞いた。
ややあって、彼の声の調子が落ちる。
「そうですかー……。いえ、ご無理を言って申し訳ないです。はい。また機会がございましたら。はい、失礼致します」
そうして、彼はスマートフォンを雑に机上に放り、はぁーっという長い長いため息を吐いた。
「……ごめん。忙しそうだね」
私に気付いていないプロデューサーに軽く声をかける。どうもタイミングが悪かったようだから、忘れ物を取りに来ただけであることを伝えて、今日はそそくさと退散しよう。
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