渋谷凛「ソールド・アウトマーク」
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21: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:39:52.96 ID:k2me14jR0

「ん? あれ。凛?」

「うん、お疲れ様。ちょっと忘れ物があって、近くに来たからついでに」

「ああ、そうなんだ。ごめんな、ちょっと立て込んでて」

あはは、と疲れた顔で彼が笑う。

あまり深入りしてもよくない、とは思いながらも「何かあったの?」と聞かずにはいられなかった。

「んー。今日さ、ちょっとした音楽フェスみたいなのがあってさ。そこで、ウチの所属の子とロックバンドがコラボする予定だったんだけど。どうもこの暑さでウチの子が……ね」

「うわ、大変だね」

「ウチの子はゲスト枠みたいなもので、そのバンドのコーラスとして軽く入るのと、一曲披露するのと、簡単に喋って進行の補助をするくらいだから代役立てられるかなぁ、と思ったんだけど」

「なかなか見つからない、と」

「まぁ、そういうことになる」

「そっか」

「でも、そこまで緊急事態ってわけでもないから、凛は心配しなくていいよ」

プロデューサーは笑顔を作って、言う。

きっと、私がオフであることに気を遣っているのだろう。

つまりは私が代役を買って出ないようにこう言ってくれているに違いない。

あれだけ深刻そうに電話をかけて、ため息を吐いていたというのに、この期に及んでまだ自分の事情よりも、私を優先するというのか。

素直に助けて欲しい、と一言伝えてくれたら私は断らないし、断れないだろうに。

一番切り易いカードを手札に抱えながらも、それを頑として使おうとしないのは何とも不器用な人だなぁ、と思う。

しかし、この男のそういうところを、私が気に入っているのも事実で。
 
このまま私は「そっか。大変だと思うけど、頑張ってね」なんて軽く声をかけて、回れ右をするだけで、平穏なオフの一日に戻ることができる。

彼も本心でそれを望んでくれているであろうし、きっとここで私が手を挙げずとも、彼ならば問題なく代役を見つけるだろう。

だが、それが何の言い訳になろうか。

私が、私のために取る選択は、もう決まっていた。



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