10: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:17:40.87 ID:k2me14jR0
「ちゃんと聞いてる? 返事は? 危ないところには行っちゃダメだからな」
「聞いてるってば。……なんか最近、過保護な親みたいになってきてるよね。プロデューサー。敬語も出なくなったし」
「自覚はある。だけど、言っとかないと気が済まないんだもん」
「そんなに心配ならついてきたらいいでしょ。海に」
「ええー。だって」
「わざわざ水着に着替えたのに、砂浜にずっといるだけなんてもったいないと思うよ」
「そうかなぁ」
「そうだって」
「でも島村さんと本田さんの担当さんらに見られたら、こう、気まずいし……」
「なんで?」
「え、だって、あの二人は今仕事中なわけで……」
「プロデューサーだって仕事中でしょ。私の護衛っていう」
「業務内容に護衛なんてあったかなぁ」
「ないなら今日から追加したらいいよ」
「護衛手当みたいなの、出る?」
「あとでかき氷ひとくちあげる。」
「かき氷なんてどこにも売ってないだろ」
「探せばあるんじゃないかな」
「いや、探してもないよ……海の家すらないんだから」
「もう。いつまでも渋ってないでさ、覚悟決めなよ」
「んんん……まぁ、行くかぁ」
「最初からそう言えばいいのに」
「あ。でも、海に入るなら……」
言って、プロデューサーは左手をぼうっと眺めたあとで「外しとくか」と薬指の指輪をぐりぐりと外した。
その様を見て、何故だか胸の当たりがちくりとする。
今の痛みはなんだろう。
疑問に思うも、もう既にその痛みは消えていて、そもそもそんな痛みなどなかった気さえしてくる。
「荷物と一緒に置いといても大丈夫かな。誰も盗んだりしないだろうし」
「え。大丈夫? 車に置いて来るとかした方が」
「へーきへーき。よっぽど大丈夫だと思うよ」
「プロデューサーがいいならいいんだけど……」
「よし。海行こう! 海!」
「さっきまであんなに渋ってたのに、急にノリノリだよね。もう」
「一回踏ん切りついちゃったらもう、な」
その感覚はわからないでもない。
というか、実体験として知っているからわかってしまう。
なぜなら、アイドルとなってからの私がそうだったから。
そんなガラじゃない。何かに夢中になったことなんてないし。と二の足を踏み続けていたにも関わらず、いざ始めてしまったらがむしゃらにレッスンに励み、オーディションの結果に一喜一憂し、アイドルとしての活動に熱中している私が今ここに在る。
だから、「そういうの、あるよね」と心の底から返した。
彼もそれに対して「あるよなぁ」とにやついている。お互い、胸の内で思っていることはどうやら筒抜けのようだった。
35Res/51.99 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20