渋谷凛「ソールド・アウトマーク」
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11: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:19:23.95 ID:k2me14jR0

さて、と前置いてプロデューサーは大きく伸びをする。

「やるか」

私が「何を?」と口を挟む前に彼は駆け出した。

高校生の私から見ても随分と気合の入ったダッシュを目の当たりにぽかんとしてしまう。

一歩、二歩、三歩。

足を取られるはずの砂浜にも関わらず力強い踏み込みで、あっという間に波打ち際まで辿り着いたプロデューサーはエビ反りに跳び上がる。

「海だー!」

呆気にとられて、依然ぽかんとしたままの私に向かって彼は仁王立ちになって、叫ぶ。

「次は凛の番!」

言われて、周囲を見渡す。

まだハイシーズンには遠く、気温こそ高いが水温は低い上に、撮影用に選ばれただけあって辺鄙な場所に位置するこのビーチに人の気配はない。

はぁ、とため息に似た何かを吐き、腹を括る。

いいだろう。受けて立とうではないか。

それに、これも撮影だと思えば恥ずかしくはない。

先程目の当たりにした彼の全力ダッシュを思い出しながら、重心を落とす。ぐっ、と前のめりになり、出した左足が踏みしめる砂の感触が強くなった。

砂の感触を確かめるように視線が下に移り、そこではたと気が付く。

波打ち際まで続くプロデューサーの足跡。少し足をずらして、なんとなくその足跡を踏んづけてみると、私の足よりも一回り大きくて「あんな調子でも立派に男の人の体格なんだなぁ」と当たり前のようなことを思うのだった。

「まだー?」

もう待てない、といったふうに彼は手を振り回して、私を催促してくる。

もう、わかってるってば。

左足で思い切り砂浜を蹴る。

次いで出た右足は、前方のプロデューサーの二歩目の足跡よりも手前に着地した。

歩幅さえこんなにも違うものなのか。

体格の違いを実感しながらも、間髪入れずさらに左足を出す。

右、左、右、左。

前傾姿勢でどんどんと加速していき、プロデューサーのもとへあと数歩ほどというところで、大きく踏み切り、私も跳んだ。

「海だー」

いける。

そう思ったのに、口から出たのはどこか棒読みじみた声だった。



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