12: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:21:48.09 ID:k2me14jR0
「うーん。恥ずかしさに負けたな」
肩で息をする私へ、追い討ちのように辛口評価が飛んできた。
「普通、あんなばかみたいに叫べないと思うけどね」
やられっぱなしも癪なので、仕返しをする。
「必要に応じてバカにでも何にでもならないと。凛はもうプロなんだから」
「お仕事では、でしょ?」
「普段できないことはお仕事でもできないぞ」
「できるってば。やらなかっただけ」
「本当かなぁ」
不毛なやり取りが、お互い決着がつかないことを悟るまでの間しばらく続いた。
そうして、ひとしきり言い合ったのちに、ばからしくなってきて、どちらともなく吹き出してしまったのだった。
「ほら。時間は限られてるんだから海で遊ばなきゃ損だよ」
「……って言ってもなぁ。泳ぐには水温低いだろ」
「海だー、ってやってたときはあんなにハイテンションだったのに」
「アレでなんか満足しちゃった」
「撮影の時ちょっと入ったけど、今日は陽射しが強いから足までなら丁度良かったけどね」
私が言い終わるとすぐに、プロデューサーはじゃぶじゃぶ海へ入っていく。
「ん。本当だ。気持ちいいくらいだな」
「でしょ? 多少入れたところでどうやって遊ぶのって話ではあるんだけどさ」
「まぁ、結局そこに着地するよなぁ」
青く澄んだ海に白い砂浜、よく晴れた空。
絶好の条件こそ揃っているが、何をして遊べばいいかという最初の一歩で躓く私たちだった。
二人して頭を捻るも、画期的なアイディアなど出るはずもない。
足先だけ海に入って、棒立ちしているというのは傍から見たらなんともシュールな光景なのだろうな、と思った。
少しして、何もしないことに焦れてきたプロデューサーが「そうだ」と言って、さらにじゃぶじゃぶと沖の方へ歩いていく。
どうせろくでもないことなのだろうが、一応見てやるとしよう。
そう思って彼の動向を見守っていると、急にその姿が倒れ込むようにして海の中へ消えた。
え。
足でも滑らせたのだろうか。
それとも、攣ったとか。
悪い予感ばかり浮かび、慌てて彼が姿を消した場所へ急ぐ。
必死で地面を蹴っているのに、水の抵抗で思うように速度が出ないことに苛立って仕方がない。
早く、早く、早く。
そのとき、ざぶんと水中から彼が顔を出した。
「あれ。なんで泣きそうな顔してんの」
「……え?」
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