渋谷凛「ソールド・アウトマーク」
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13: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:23:52.72 ID:k2me14jR0



それから、詳しく事情を聞くところによると、プロデューサーは海藻を使って遊ぼうと考えたらしく、その海藻を集めるために潜ったようだった。

急に消えるものだから、私は本気で心配したというのに。

やってきた安堵が一段落すると、今度はふつふつと怒りが沸いてくる。

「溺れたかと思うでしょ。急に海に消えたら。それもあんな倒れるみたいに」

心配するこっちの身にもなってよ、と私は怒りのままに彼にまくしたてる。

彼はと言えば、そんな私の説教もどこ吹く風で、にこにことしているばかりか「そんなに心配してもらえてうれしいなぁ」などと言うのだから、私の怒りは収まるどころか増す一方だった。

「そんな怒んないで、って。ほら、海藻あげる」

腰に両の手を当てていた私の両肩に一枚ずつ、海藻が貼られる。

相手にしたらだめだ。コイツはさらに調子に乗るぞ、と無視を決め込んで私は説教を続行する。

「二枚じゃ足りない。いいだろう。大サービスでもう一枚!」

次は私の頭の上に置いてくる。たらりと額から鼻の頭にかけて垂れたそれは、さながら中国の妖怪のような外見になっていることだろう。

しかし、ここで無視をやめてしまってはこれまでが水の泡だ。

説教さえやめて、目さえ閉じて、口もきいてやらない作戦に出る。

されるがままなのは癪だけれど、無視をし続けることで、その内に罪悪感の方が勝り謝ってくるに違いない。

この男はそういう男である。そう確信して、全てに無反応を貫いていたところ、耳に機械的な音が届いた。

かしゃっ。

「え」

瞼を上げて状況を確認する。

目の前にはスマートフォンを持ったプロデューサーがいた。

「なんでスマホ持ってるの」

「防水だし。良いオフショットが撮れるかなぁって思って」

もう我慢の限界だった。

頭上と両肩にに置かれた海藻を剥がし、右手で思い切り握りしめ、振りかぶる。

「え。ちょっ、凛さん?」

プロデューサーが油断している内に顔面目掛けて全力で投げつけてやった。

直撃の瞬間、海藻は三方向に別れ、べちーんという音を立てて直撃し、プロデューサーの顔面に綺麗に貼り付く。

すぐさまカメラアプリが起動されたままの彼のスマートフォンをひったくり、この間抜け面を十連射で記録するという仕返しに私は成功した。

でも、記録したはいいが消されてしまっては意味がない。

ならばどうしたらいいか。簡単だ。

このスマートフォンを取り返される前に彼が関与できない場所に送ってしまえばいい。

飛び退くようにして一歩下がり、水しぶきが跳ねる。彼のスマートフォンを操作して連絡先の一覧を開くと、最上段に私の名前があった。

渋谷でサ行であるはずなのに一番上にあるのは何故だろう。疑問に思いながら自分の名前をタップすると読みが『アシブヤリン』となっていて、なるほどと思う。

業務上でおそらく彼が最も電話をする相手が私だから、すぐに発信やメールの送信ができる位置に置いておきたいのであろうし、至極合理的ではあるのだが、その方法がなんとも面白かった。

和みつつ、さらに自身のメールアドレスをタップして、メールアプリを開く。添付ファイルに先程のプロデューサーの写真を添付して送信ボタンを押した。

直後「取った!」と取り返されてしまったが、もうやるべきことはやったので問題はない。




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