49: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:07:19.00 ID:9YnfOZCp0
『それじゃあ、また』
そう言いながら俺は花屋を後にしようとする。たぶんまた来ることになるだろう。花に詳しいわけじゃないので、買った花はだいたい二日くらいで元気をなくしていってしまうのだ。
初回に至っては水を替え忘れていたというのもあって、もう半分枯れかかっている。特に今は夏場だし、ちゃんと毎日水を替えても長持ちはしてくれない。
いい花瓶を用意して、花のプロなら倍以上持たせられたりするんだろうな、なんて思いながら足を進めようとした瞬間だった。
「――ねえ、どういうつもり」
背後から掛けられた声。振り返れば怪訝な表情をした彼女の姿。その目には覚えがある。あの夜に見た、詐欺師を見るような目だ。
『……うん? えっと、どういうこと……です?』
質問の意図を理解しかねて俺はそう返す。すると彼女はどこか怒ったそぶりで、
「っ、とぼけないでよ。またあの“アイドル”とかいう話をしに来たんでしょ。なのに花だけ買っていって。アネモネはそんなに安い花じゃない。変な話のためにお金も花も無駄にしないで」
そうまくしたてるように言う。なるほど、得心行った。そういうことね。つまり彼女は俺がスカウトのために欲しくもない花を買って、そして無駄な出費をしていると思っている。
まあそう思うよね……。そこまで的外れでもないし。それに多分八割がたは売った花の心配をしているのだと思う。下手をすると捨てているかもって。なのでそこは一応弁明をすることにした。
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