鷺沢文香「本に、命を」
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35: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:09:33.69 ID:UfnhAP/w0
しかし、彼にとってそれはきっと通用しないでしょう。
それがわかっているから、見せるわけには、いかない。
不可抗力とはいえ、血塗れで本を台無しにするという、眼を背けたい行為に関わってしまった彼です。
恐らく、本の行方こそ訊ねど、実物をもってして無事を確認したいとは言い出さないでしょう。

ゆえに、私が引き取ったことと本文も無事に読めるということだけ伝えて安心してもらうのが、
きっと、誰にとっても1番です。

机に散らばる赤い紙片をまとめて棄て、その本を寝かせて置き去りにしながら。
そういえば、開いたページの本文どころか、本の題さえどんなものであったか想い出せないことに気付いて、
しかしそのまま席を立ちました。

せっかくの彼とのお仕事に遅れてはいけませんでしたから。


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