49: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:54:08.46 ID:tLeGcQVf0
その日から私とあの子は、周りの入院患者へ迷惑をかけない時間帯に二人でぺちゃくちゃたくさんおしゃべりした。
採血のための注射が痛いだとか。
毎日飲む薬が多すぎるだとか。
親が土産で持ってくるものがローテーション化してきてつまらないだとか。
50: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:55:37.21 ID:tLeGcQVf0
そして季節が一つ変わり、二つ変わり、『ずっとこんな生活が続くのかな?』という不安と一種の諦めと落ち着きを持ち始めた時だった。
「あたしね、今度手術するんだって! なんか凄い手術らしい? けど心配しないでって看護師さんが言ってた!」
51: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:56:07.72 ID:tLeGcQVf0
「そうだ! 看護師さんにそうお願いしよう! 手術前に『なにか叶えてほしいことある?』って聞かれたから、特にないよって答えたけど、ここのベッドに戻れるようにお願いしよう!」
そう明るい声で話すあの子の話を、私はうんうん頷きながら聞いてた。
これはなんとなく私の想像にすぎないんだけど……。そしてきっと周りの人達は本人には伝えてないだろうけど……。
52: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:56:55.59 ID:tLeGcQVf0
『あの子の手術がうまくいきますように……!』
53: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:58:13.38 ID:tLeGcQVf0
一晩中祈ってたせいで、その日は全然眠れず、翌日に看護師と両親に心配されながら怒られた記憶がある。
ただそれくらい真剣にあの子の手術成功を祈ったあの日。
でも、あの子が帰ってくることはなかった。
54: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:59:01.90 ID:tLeGcQVf0
『カミサマなんてこの世に存在しない』
55: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:59:43.13 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
「どう? これが暗くて面白くない話の全部。ね? つまらなかったでしょう?」
56: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:00:40.95 ID:tLeGcQVf0
「でも───」
57: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:01:21.92 ID:tLeGcQVf0
私が席から立ち上がろうとしたその瞬間、クラリスさんの声が響く。まるで見ていたかのようなタイミング。
そのまま無視して帰ろうかとも思ったけど、そのタイミングの良さに免じて、まだここにいてあげる。
「───あなたに今日一つだけ覚えてほしいことがあるのです」
58: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:02:06.64 ID:tLeGcQVf0
「貴女は『その子が亡くなったこと』、それ自体に着目してらっしゃるようですが……」
「その子は生きていたのです。苦しかったかもしれませんが、必死に生きようとしていたはずです。その子は生きていたのです。貴女に向けた笑顔は本物だったはずです。その子は生きていたのです。難しい手術を受け入れて、尚且つ生きようとしたはずです」
59: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:02:50.29 ID:tLeGcQVf0
「──その子が生きていたことにも着目してあげてください、加蓮さん」
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