【ミリマス】馬場このみ『衣手にふる』
1- 20
87: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:47:27.26 ID:eH8hmcZZo

目の前の誰もいない客席たちは、残酷なほどに静まり返っていた。
このみの抱えた腕はいつの間にか震えていて、触れる手のひらは自然と腕を抱き寄せていた。
気が付けばこのみは図らずも目線を切っていて、自身のその縮こまる腕に目を向けてしまっていた。
はたと我に返った時には、その不甲斐なさに溜息さえ出てしまいそうだった。


88: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:48:06.16 ID:eH8hmcZZo

ところが、その時下を向いた目線の先、
舞台の床面に付けられた小さな印がこのみの目に映ったとき、このみの鼓動が確かに音を立てた。
それは、ステージ上で立ち位置を確認する為にT字に貼られた、なんの変哲も無いテープによる印でしかないはずだった。
裏腹に少しずつ早くなっていく鼓動は、緊張でも、焦りによるものでもないと、このみにははっきりと分かった。
以下略 AAS



89: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:48:34.41 ID:eH8hmcZZo

このみは、その鼓動に導かれるようにして、一歩、また一歩と、舞台上の段を登り、等間隔に並べられた印を辿っていった。
そして、ある一つの印の前でこのみの足が止まった。
先程より少し上手側の、一番後ろの列。

以下略 AAS



90: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:49:07.53 ID:eH8hmcZZo

このみは鳴り止まない鼓動を左手で感じながら、その印に自身の足を合わせた。
その場所は、何時でも背中を支えていてくれるような、不思議な心地良さがあった。
このみは目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。
物音一つ聞こえないほどの静けさの中で、このみの身体には自身の呼吸音と鼓動だけが響いていた。
以下略 AAS



91: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:49:45.92 ID:eH8hmcZZo

刹那、音のなかったこの世界は、耳を貫き肌を震わるほどの音と歓声とが飛び交うステージへと姿を変えた。
焦がれるほどに眩しいステージライトに包まれて、このみも、劇場の仲間たちも、ステージに立っていた。
たった一瞬、瞬きほどの間にこのみが垣間見た景色は、劇場の仲間たち越しに見えた虹色の光たちだった。
熱気は渦を巻いて、また新たな熱になってステージから飛び出していく。
以下略 AAS



92: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:50:11.63 ID:eH8hmcZZo

気がつくと、世界は元の姿に戻っていた。
先ほどと変わらず、ステージライトは今は点いていないし、客席には誰もいない。
この舞台に立っているのはやはりこのみだけであった。



93: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:51:48.33 ID:eH8hmcZZo

しかし、そうであったとしても、見えた景色は本物だったと、このみは確信していた。
あのダンスも、あのライティングも、あの歓声も。
あの景色は、数えきれないほど歌い続けてきた、『Thank You!』の景色なんだ、と。

以下略 AAS



94: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:52:24.42 ID:eH8hmcZZo

『ミリオンスターズ』の私も、『アイドル馬場このみ』の私も、始まりは虹色の景色からだった。
虹色から始まって、その中にあった『私の色』が、アイドル馬場このみの、暖かな桃色の景色なんだ。

「そっか……。」
以下略 AAS



95: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:52:53.37 ID:eH8hmcZZo

このみは胸が熱くなるのを感じながら、誰もいない客席を見ていた。
物音一つさえない、息を飲むような静けさの中で、一階席も二階席も、一番前から後ろまでを見回した。

公演では、前の曲が終わって舞台が暗転した後、その歓声がまだ残るうちから次曲の歌い手は立ち位置にスタンバイする。
以下略 AAS



96: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:53:20.79 ID:eH8hmcZZo

『きっと、この場所なら大丈夫。』
このみは、もう一度両腕を胸に抱き寄せた。
折れそうになった数だけ出会えた『これまで』を。
何よりも愛おしい、かけがえのない『今』を。
以下略 AAS



97: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/26(土) 19:32:36.71 ID:ZIFRcwBno
>>53 >>56 >>58
×すばるん
○昴くん


321Res/210.41 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice