【ミリマス】馬場このみ『衣手にふる』
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84: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:41:59.68 ID:eH8hmcZZo

気づいてほしいけど、見つけてもらえているかなんて分からなくて。
誰かに届かないことは、消えてしまうよりも辛いことだ。
もしそうであるならば、例えもう会えなくなってしまうとしても、本当の自分を知ってほしい。見てほしい。
2度と会えなくなってしまったとしても、繋がりが消えてしまう訳ではないのだから。そう、信じたいから。
以下略 AAS



85: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:42:35.94 ID:eH8hmcZZo

資料が濡れてしまわないようにと、このみは目尻を指で拭った。
このみがしばらくしてゆっくりと目を開けた時には、その瞳は真っ直ぐ前を向いていた。

あの時出会わなければ、誰かを好きになる、こんな気持ちを貰うこともなかったんだ。
以下略 AAS



86: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:46:57.45 ID:eH8hmcZZo

「……私は、この子の願いを叶えてあげられるのかな。」

このみは、ひとり舞台の上でぽつりと呟いた。
しばらくの間腕の中に抱いた資料の表紙を見ていたこのみであったが、それからゆっくりと目の前の客席を見た。
以下略 AAS



87: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:47:27.26 ID:eH8hmcZZo

目の前の誰もいない客席たちは、残酷なほどに静まり返っていた。
このみの抱えた腕はいつの間にか震えていて、触れる手のひらは自然と腕を抱き寄せていた。
気が付けばこのみは図らずも目線を切っていて、自身のその縮こまる腕に目を向けてしまっていた。
はたと我に返った時には、その不甲斐なさに溜息さえ出てしまいそうだった。


88: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:48:06.16 ID:eH8hmcZZo

ところが、その時下を向いた目線の先、
舞台の床面に付けられた小さな印がこのみの目に映ったとき、このみの鼓動が確かに音を立てた。
それは、ステージ上で立ち位置を確認する為にT字に貼られた、なんの変哲も無いテープによる印でしかないはずだった。
裏腹に少しずつ早くなっていく鼓動は、緊張でも、焦りによるものでもないと、このみにははっきりと分かった。
以下略 AAS



89: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:48:34.41 ID:eH8hmcZZo

このみは、その鼓動に導かれるようにして、一歩、また一歩と、舞台上の段を登り、等間隔に並べられた印を辿っていった。
そして、ある一つの印の前でこのみの足が止まった。
先程より少し上手側の、一番後ろの列。

以下略 AAS



90: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:49:07.53 ID:eH8hmcZZo

このみは鳴り止まない鼓動を左手で感じながら、その印に自身の足を合わせた。
その場所は、何時でも背中を支えていてくれるような、不思議な心地良さがあった。
このみは目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。
物音一つ聞こえないほどの静けさの中で、このみの身体には自身の呼吸音と鼓動だけが響いていた。
以下略 AAS



91: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:49:45.92 ID:eH8hmcZZo

刹那、音のなかったこの世界は、耳を貫き肌を震わるほどの音と歓声とが飛び交うステージへと姿を変えた。
焦がれるほどに眩しいステージライトに包まれて、このみも、劇場の仲間たちも、ステージに立っていた。
たった一瞬、瞬きほどの間にこのみが垣間見た景色は、劇場の仲間たち越しに見えた虹色の光たちだった。
熱気は渦を巻いて、また新たな熱になってステージから飛び出していく。
以下略 AAS



92: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:50:11.63 ID:eH8hmcZZo

気がつくと、世界は元の姿に戻っていた。
先ほどと変わらず、ステージライトは今は点いていないし、客席には誰もいない。
この舞台に立っているのはやはりこのみだけであった。



93: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:51:48.33 ID:eH8hmcZZo

しかし、そうであったとしても、見えた景色は本物だったと、このみは確信していた。
あのダンスも、あのライティングも、あの歓声も。
あの景色は、数えきれないほど歌い続けてきた、『Thank You!』の景色なんだ、と。

以下略 AAS



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