152: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/03/11(水) 01:26:08.91 ID:8BkDB5Im0
暫くして、このみが明日のスケジュールの確認をしていると、美咲は大きく伸びをした。
美咲のPCがシャットダウン中であるところを見るに、今ちょうど仕事が片付いたところだとすぐ分かった。
「美咲ちゃん。今日はお疲れさま。戸締りとか、後は私がやっとくわよ?」
153: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/03/11(水) 01:27:33.40 ID:8BkDB5Im0
ばたん、と扉が閉まる音を聞いて、このみは辺りを見回した。
PCファンの回る音が普段より大きく感じられた。
本当は、特段何かする用事がある訳ではなかった。
154: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/03/11(水) 01:29:55.27 ID:8BkDB5Im0
このみは、机の奥側にあるブラインドを開けて、窓の外を覗いてみた。
そこからは、並木道に植えられた木々越しに、黒く染まる海が広がっているのが見えた。
静寂が覆う海と光が飛び交う街。
二つの世界を分かつ境界線であるかのように、岸沿いに街灯の明かりがずっと向こうまで伸びていた。
155: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/03/11(水) 01:33:34.50 ID:8BkDB5Im0
始めの窓を拭き終えたら、今度は隣の窓が気になって。
窓を全部拭き終えたついでに、机も別で拭いておこうかな、と。
そんな事をして、気がつけばそれなりに時間が経っていた。
156: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/03/11(水) 01:36:01.25 ID:8BkDB5Im0
最後に、目についたテレビの前のローテーブルも拭いておくことにした。
テーブルの上の、未整理のままになった書類やチラシ類を一旦移してから、このみは台拭きに手をかけた。
腰を下ろしてテーブルを端から拭いていたこのみだったが、そのとき、部屋の外から足音が微かに聞こえた気がした。
157: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/03/11(水) 01:36:50.74 ID:8BkDB5Im0
このみは、彼が此処に戻ってくることを知っていた。
このみは腰を下ろしたままで、扉を開けた彼を見上げていた。
そのとき、自然と二人は目があった。
スーツを着た男性は、優しい目をしていて、このみを見つめていた。
158: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/04/10(金) 00:26:26.21 ID:VqwG9xH+0
彼は、自身の机に持っていた鞄を置いて、少しだけネクタイを緩めた。
「プロデューサーはまだこの後残ってくの?」
159: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/04/10(金) 00:41:15.02 ID:VqwG9xH+0
このみは麦茶の入ったグラスを2つ用意して、ローテーブルに向かいながら彼にアイコンタクトをした。
彼の方も、すぐ行きますよ、といったように手で合図をした。
鞄を置いてから、彼は事務机が並んだスペースから抜け出して、このみの元へ向かった。
160: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/04/10(金) 00:41:49.25 ID:VqwG9xH+0
このみが件のオーディション資料を受け取ったのは、丁度一週間前のことだった。
それから、このみは仕事の合間の時間を縫うようにして、今回の役を理解するために資料を読み込んでいった。
普段のこのみであれば、それでも十二分に準備をしてオーディションに臨むことができただろう。
しかし、今回の役だけは、このままでは後から後悔するかもしれない、とこのみは思った。
161: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/04/10(金) 00:43:30.84 ID:VqwG9xH+0
彼はこのみの向かいに腰掛けてから、グラスの中身を一口含んだ。
少しだけ間を開けて、表情を引き締めてから、このみに尋ねた。
「それで……なにか収穫はありましたか?」
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