5: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 10:58:50.85 ID:tZfbkx5BO
軽く首を振ってカウンターのロックグラスの中身を小さく、一口飲んだ。半端に残った生のウイスキーは溶けた氷と混ざり合い、下の上に流れてきたのはただ苦く不快な液体だった。ため息を漏らすより早く全て飲み干す。とにかく帰りたかった。
冗談じゃないっぽい、と隣で夕立が頬を膨らませたが相手にしなかった。戦闘服の下衣からマネークリップを取り出した。
「本当にもう帰るっぽい?」
6: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:00:11.93 ID:tZfbkx5BO
「色目使う気か? そんな幼いなりで」
夕立はただでさえ大きな目をもっと見開いてこちらに視線をかちりと合わせた。赤くビー玉のようにきらきらした瞳で見つめられると思わず息をのむ。途端、彼女は破顔する。
「三十路を二つ三つ越えた提督さんと大差ない女を捕まえて幼いなんて嬉しい。あたし、幼女っぽい?」
7: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:01:11.02 ID:tZfbkx5BO
不意に、二十時間前のある光景が目に浮かぶ。投光器に照らされた埠頭。あまりの明るさに彼女の目元にうっすら浮いたしわまで見えた。夕立はこちらを向いて佇む。緊張した空気の中で彼女だけバツが悪そうに笑っていた。長い亜麻色の髪はつやがなく、まともな化粧は望むべくもなかったがそれを意識させないほどには彼女の顔立ちは綺麗だった。
我に返り、脳裏の光景をかき消す。思考がとりとめなくなっているだけだ。
「提督さん、聞いてる?」
8: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:02:41.78 ID:tZfbkx5BO
「遅くまで飲むのもいいけど、ちゃんと寝ろよ」
ようやく電子タバコをくわえようと口を開けていた夕立の顔が不服そうに歪んだ。早く帰ればいいものを。
立ち上がり、早足にクラブを後にする。背に彼女の視線を感じることは、なかった。
9: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:06:10.56 ID:tZfbkx5BO
今回は以上になります
10:名無しNIPPER[sage]
2019/05/20(月) 12:21:54.07 ID:+60rzdZCo
おつ
11:名無しNIPPER[sage]
2019/05/20(月) 20:45:30.31 ID:mOoKySbKo
おつ
12:名無しNIPPER[sage]
2019/05/21(火) 00:11:08.37 ID:MMO8jJ5V0
白露型は発育が無駄に良い中学生みたいなズルい色気と幼さ
有るから股関に悪いねん・・・特に長女と四女
13: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/21(火) 23:05:52.09 ID:C8qGmYAwO
電気を着けることもなくベッドに倒れ込んだ。戦闘服のまま、着替える気力もない。月明かりが射し、青暗く染まった天井を見つめていると、静けさのあまり耳鳴りを感じ取れた。眠いわりには泥酔しているせいで上手く寝つけない。まぶたを閉じても目が回っているようだ。
不意に夕立の顔が浮かぶ。iQOSを握ったまま笑っていたときの。ちゃんと帰ったのだろうか?
彼女が着任してからまだ半年と経っていない。しかし意識する頻度は増えている。きっと好きなのだろう。その明確なきっかけや理由を自分の中で探るべきではない。そんなはっきりしたものはたぶんない。それよりも彼女について心配すべきことはいくらかあった。ここでは解決することのできない心配事をつらつらと思い浮かべている内に彼の意識はどこかへ行こうとしていた。
14: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/21(火) 23:07:03.07 ID:C8qGmYAwO
彼女は着任直後から距離が近かった。食堂に行くにも、時おり走りに行くにも犬のように着いてくるのも最初はいやだったが、ニ、三週間もすれば慣れていた。すると今度はたまに彼が一人の時間を持つため勤務後に立ち寄る将校クラブにも着いてくるようになった。
これにはうんざりした。おまけに彼女は酔うと相手構わずスキンシップが激しくなる。最初は止めていたが、やがて見てみぬふりをするようになった。彼女の事情を知ると、よろしくないとわかっていても止めるのが忍びなくなってしまった。
いずれ彼女は確実に死ぬ。思ったほどショッキングではなかったが、絶えず彼の胸をざわつかせていた。
15: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/21(火) 23:08:00.82 ID:C8qGmYAwO
週明けの朝を穏やかな気分で迎えられた試しはない。たとえ何も起こらず平穏なまま時間が経っていったとしても不安は拭い去れない。
登庁してまもなく、彼が執務室でパソコンを起ち上げながら湯のように薄いコーヒーを飲んでいると制服姿の男がふらりと入ってきた。
ひょろりとしたその男は階級こそ彼と同じだが海軍内でのキャリアは遥かに長く、年齢も上だ。まだ四十をいくらか越えただけなのに髪はほとんど白くなり、大きいわりに神経質な色をたたえた目はいつも不健康そうに血走っていた。
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