1: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 10:55:10.74 ID:W0Tfc6iuo
・地の文あり
・亀更新
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2: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 10:56:00.96 ID:tZfbkx5BO
不意にまぶたが落ちた。意識する間もなく。きっと気絶する時というのはこんな感じなのだろう、と思うのは大抵もう一度目を覚ましてからだ。今はそんなことを感じる間もなく意識はどこか遠くへ行った。
このまま何もなければ、きっと緩やかに、深く深く眠っていったのだろう。脳も身体もそうなると信じて疑わなかった。しかしその予測は目を閉じてからほんのかすかな時間の間に消し飛ばされた。右肩をぐっと捕まれ、身体をぐらぐらと揺らされる。思わず目を開けた。
「提督さん、もう眠いっぽい? まだ寝ちゃだめぇ」
3: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 10:56:41.46 ID:tZfbkx5BO
ほとんど耳に口をつけるような近さで彼女は言った。それもささやき声であったなら、歳恰好に似合わぬ色気を感じていたかもしれないがいつものように声を出されては耳障りですらある。彼女の方を向いた。
「おはよ、提督さん。あたしたちの時間はこれからっぽい」
「なにがこれからだよふざけやがって。お別れの時間が近いだろ」
4: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 10:57:40.22 ID:tZfbkx5BO
無意識の内に笑みが失せた。退庁してからまだ二時間しか経っていない。
夕立との時間が苦痛なのではない。しかし昨晩から艦隊指揮所に詰めて睡眠も細切れにしか取れていないまま退庁を迎えた身としてはこの時間まで将校クラブで飲むのは正しく苦行だった。明日が土曜日なのが奇跡だと安堵しながら迎えた週末だというのに。
「私は昨日の朝に起きてからまともに寝てないんだ。分かるだろ。悪いけど、そろそろ寝かせてくれよ。夕立は眠くないのか?」
5: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 10:58:50.85 ID:tZfbkx5BO
軽く首を振ってカウンターのロックグラスの中身を小さく、一口飲んだ。半端に残った生のウイスキーは溶けた氷と混ざり合い、下の上に流れてきたのはただ苦く不快な液体だった。ため息を漏らすより早く全て飲み干す。とにかく帰りたかった。
冗談じゃないっぽい、と隣で夕立が頬を膨らませたが相手にしなかった。戦闘服の下衣からマネークリップを取り出した。
「本当にもう帰るっぽい?」
6: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:00:11.93 ID:tZfbkx5BO
「色目使う気か? そんな幼いなりで」
夕立はただでさえ大きな目をもっと見開いてこちらに視線をかちりと合わせた。赤くビー玉のようにきらきらした瞳で見つめられると思わず息をのむ。途端、彼女は破顔する。
「三十路を二つ三つ越えた提督さんと大差ない女を捕まえて幼いなんて嬉しい。あたし、幼女っぽい?」
7: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:01:11.02 ID:tZfbkx5BO
不意に、二十時間前のある光景が目に浮かぶ。投光器に照らされた埠頭。あまりの明るさに彼女の目元にうっすら浮いたしわまで見えた。夕立はこちらを向いて佇む。緊張した空気の中で彼女だけバツが悪そうに笑っていた。長い亜麻色の髪はつやがなく、まともな化粧は望むべくもなかったがそれを意識させないほどには彼女の顔立ちは綺麗だった。
我に返り、脳裏の光景をかき消す。思考がとりとめなくなっているだけだ。
「提督さん、聞いてる?」
8: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:02:41.78 ID:tZfbkx5BO
「遅くまで飲むのもいいけど、ちゃんと寝ろよ」
ようやく電子タバコをくわえようと口を開けていた夕立の顔が不服そうに歪んだ。早く帰ればいいものを。
立ち上がり、早足にクラブを後にする。背に彼女の視線を感じることは、なかった。
9: ◆uLYDn.hAKU[saga]
2019/05/20(月) 11:06:10.56 ID:tZfbkx5BO
今回は以上になります
10:名無しNIPPER[sage]
2019/05/20(月) 12:21:54.07 ID:+60rzdZCo
おつ
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