42: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:12:22.71 ID:3V1PGSXQ0
あかりちゃんがハンドマイクを手に取る。
音楽が流れ、リズムに合わせてステップを踏む。
マイクを口元まで持ち上げ、澄んだ声を響かせる。
閃光が煌めいた。
43: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:12:54.02 ID:3V1PGSXQ0
ひとつだけ、あのときとは違うことがある。今度こそ、ちゃんと見える。
髪の毛一本一本の動きが見える。
呼吸と、声帯の振動が見える。
衣装の内側、皮膚の更に内側の、筋肉の動きが見える。
44: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:13:29.92 ID:3V1PGSXQ0
*
杏「うん、レッスンの成果が出てる。いいステージだったね」パチパチ
きらり「…………」パチパチ
45: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:13:56.42 ID:3V1PGSXQ0
きらり「え?」
杏「あの子、ふだんはヘラヘラしてるのに、たまにスイッチが切れたみたいに空虚な目をしてることがあるんだよね。この世のすべてがつまらなくて、退屈で仕方ないみたいな。あの目が気に食わない」
きらり「…………」
46: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:14:39.69 ID:3V1PGSXQ0
*
心臓の音が聞こえる。
客席の興奮は冷めやらず、あかりちゃんが去っても、まだ雄叫びのような声を上げ続けている。
47: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:15:12.79 ID:3V1PGSXQ0
プロデューサーさんが大きくため息をつく。
「正直言って、大誤算だ。辻野あかりがこれほどとは予想していなかった」
「わたしもっす」
48: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:16:27.22 ID:3V1PGSXQ0
スタッフが出番だというような合図をし、わたしはステージに向けて足を進める。
辺りはまだ、あかりちゃんの残していった喧噪に包まれている。遮断しようと思えばできた。だけど、あえてそのままにしておいた。
ステージ中央、マイクスタンドに差さっていたマイクを手に取る。
さっきまであかりちゃんが握っていたそれをくるんと回し、特に意味もなく軽く跳躍してみせる。
ようやくわたしの姿に気付いたように、客席の声がすっと静まる。
49: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:18:00.29 ID:3V1PGSXQ0
*
『お待たせしました。審査が出揃いましたので、W.I.N.G.決勝の結果発表をさせていただきます』
50: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:18:28.48 ID:3V1PGSXQ0
『辻野あかりさん、喜びの声をどうぞ』
あかり『はい! えっと、その――山形りんごを、よろりんご!!!』
51: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:19:30.26 ID:3V1PGSXQ0
*
それから2日後、あさひが消えた。
元々、結果にかかわらず決勝の翌日はオフで、事務所にやってくるのは、更に次の日という予定になっていた。
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