43: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:12:54.02 ID:3V1PGSXQ0
ひとつだけ、あのときとは違うことがある。今度こそ、ちゃんと見える。
髪の毛一本一本の動きが見える。
呼吸と、声帯の振動が見える。
衣装の内側、皮膚の更に内側の、筋肉の動きが見える。
あかりちゃんの身体能力は、おそらく特別優れてはいない。その振り付けの中に、常人離れした力や速度はない。
だけど、ほんのわずかな動作にも意味があり、すべての動きに必ずふたつ以上の意味が持たされている。それらを複雑なパズルのように組み合わせ、運動エネルギーを再利用しながらダンスが作られている。
小指の先から立ち位置まで、コンマ1ミリの狂いもないと直感的に思った。吸い込む空気の量まで、正確に計測しているような気がした。
奔流する情報の量に、脳が痺れそうになる。
だけど、まだ足りない。もっと見続けなければならない。
あの技術の秘密を、読み取れる限りの情報を読み取って、今すぐ、この場で飲み込まなければいけない。
それは一瞬であるようにも思えたし、千年のようにも感じた。
あかりちゃんがぴたりと静止し、ひと呼吸分の間を置いて、ゆっくりとお辞儀をする。
集中していた意識を解き、感覚が戻ってくる。
客席からは、爆発するような歓声が轟いていた。
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