一ノ瀬志希「ほころび」
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93:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:00:05.17 ID:SYS+AFC90
 地方に出る電車は、夜遅くにも関わらず満員だった。
 それは、普段電車を使わないあたしにとっては知る由も無い経験で、後ろの人から押されただけなのに、サラリーマンのおじさんから舌打ちをされた。

 あたしもつい、にらみ返した。
 大事なキンモクセイが潰される所だったのだ。
 でもそれは、おじさんにとっては全然どうでもいい話で、むしろこの満員電車の中、デッカい植木鉢を抱えるJKこそ迷惑な存在であろうことも知っている。
 余裕が無いのはあたしの方。

 都心部を離れ、建物も少なくなってくると、窓の外はすっかり闇一色になっていく。
 乗客もだんだんと減り、いつの間にかあたし以外に同じ車両の人は、数えるほどしかいない。


 あの時の駅でも、夜に降りるのは初めてだから、全然違う場所にしか見えなかった。
 ICカードを改札にかざすと、残金はギリギリだ。

 乗り越し精算機が無いけど、チャージする時はどうすればいいんだろう。
 どうでもいいことがいちいち思考を妨げる。



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