86:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 00:32:33.85 ID:SYS+AFC90
「そこの庭の隅っこに、ネットが架かっているのが見えますか?」
お母さんは、窓の外にある庭の一角を指差した。
パッと見、ネットというより布が架かってあるだけかと思ったら、よく見ると蔓みたいなのがビッシリと茂っている。
「アサガオです」
視線を戻すと、お母さんが苦笑していた。
「あの子が小学生の時、夏休みの宿題で、アサガオを育てたんです。
それで、種がいっぱいとれるものだから、あの子は学校の裏庭にバァッと蒔いて……
裏庭をアサガオの蔓だらけにしたあの子を、当時の担任の先生は叱りました。ふふっ、当たり前ですね。でも」
言葉を切り、深く息を吸う。
なぜか、彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
「あの子は、先生と、私にも必死に頼み込んだんです。
アサガオを家の庭で育てさせてくれ、って……迷惑のかからないように、今度は自分の責任で育てるからと、服の裾を引っ張るんです。
小学校に上がったばかりの子が、いつ覚えたのかしら、責任だなんて言葉を口にするもんだから、私も先生もビックリして……
内心、嬉しかったんでしょうね。先生はこう仰ったんです」
おもむろに、お母さんは自分の後ろの電話台に手を伸ばし、そこに置かれていた写真立てを取ってあたし達に見せてくれた。
白いワンピースを着て、愛らしくピースしている小さい女の子――夕美ちゃんと、ちょっとふくよかなお婆ちゃんが映っている。
「宿根アサガオなら、適切に霜除けや敷き藁をしてあげれば、冬も越せるのよ。
お母さんにお願いして、今度は庭にグリーンカーテンを育ててみましょうか、って……
その先生は、夕美にとって、ガーデニングの先生でもあったんです」
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