3: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:09:14.94 ID:cgXM4cARO
「お疲れ様、ゆかり」
「プロデューサーさん……」
ダメでした、と彼女は柔らかく笑う。清らかで彼女の人となりがよくわかる笑顔、だけど強く握られた拳とその声には隠しきれない悔しさが込められていた。
「ゆかりはよくやっていたよ」
「ありがとう、ございます」
慰めなんかではない本心だ。ゆかりがこのオーディションに並々ならぬ情熱を抱いていたことは担当プロデューサーである俺が一番理解しているつもりだった。そして彼女のパフォーマンスを見たとき、
間違いなく合格するという確信があった。確信を抱く程のパフォーマンスなんて、そうあるものじゃない。しかし現実はままならないものだ。ゆかりの番号が呼ばれることはなかった。
「雨、降ってきましたね」
「車に乗ろう。風邪をひく」
悲しみを抱いた少女を濡らすように二月の冷たい雨が降り始める。まるで三文小説の表現のようだ。涙雨だなんてあまりにも安直すぎて誰だって思いつくじゃないか。かといって、他の表現を探すほどの余裕はなかった。
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