29: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:29:30.98 ID:piIM8FBL0
その日は3月に迫った期末試験の範囲を重点的に見てもらった。
学校から課題が出されるので、その中で間違えたところや、分かり難いところを教えてもらう感じだ。
塾講師をしていただけあって教えるのには慣れているようで、説明は簡潔で分かりやすかった。
僕が問題を解いている間、佐藤さんは本を読んで過ごしていた。
30: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:33:52.83 ID:piIM8FBL0
「大学生のときに色んな所に行けばよかった!」
「キミは絶対に大学生になったら、時間のかかることをした方が良いよ!」
「原付で日本を回るとか良いよねー!」
と、独り言のように喋りかけてくる。
31: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:42:26.86 ID:piIM8FBL0
試験対策と一方的な雑談でその日は終わった。
意外と集中して勉強できたことに驚いていた。自習中にクラスの女子が横で喋っている時と何が違うのか分からないが、気が散ることがない。声とか話し方の問題だろうか。
「今回の対策は付け焼刃だけど、試験頑張ってね。」
32: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 13:47:26.35 ID:piIM8FBL0
次の試験結果が悪くても彼女は気にしない気もしたが、部活も辞めて
勉強も教えて貰っている身で進歩がないというもの嫌だったので、
テスト期間が始まる前も図書館に来て勉強するようになった。
その間、図書館で会うかもしれないと思ったが、彼女を見かけることはなかった。
33: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 13:48:13.57 ID:piIM8FBL0
ほどなくテスト期間に突入し、全部活動が活動停止になる。
自由な放課後を手に入れた大概の生徒は、勉強会と称して近くのファミレスで集まったり、
カラオケに行ったりと、テスト期間を満喫している。
34: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 13:49:29.90 ID:piIM8FBL0
「勉強ばっかしてねーで、ボーリングでもいこーぜ!」
「捻挫してるやつをボーリングに誘うかね、フツー。」
「そりゃカモ要員。」
「はぁ?お前なんて捻挫どころか両足骨折でも勝てるわ。」
35: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 13:50:08.33 ID:piIM8FBL0
毎日、鹿島とじゃれている内に期末テストは終了し、以前のように最後の追い込みをかける部活の熱気が戻ってきた。
放課後の学校に居辛さを再び感じるようになる。
授業が終わると、部活に打ち込んでいる友達や知り合いを横目に、そそくさと大学図書館へ向かう。
このころには大学で勉強することが少しの優越感をもたらしていた。
36: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 13:51:05.50 ID:piIM8FBL0
土曜日、図書館で佐藤さんと待ち合わせ。
佐藤さんは僕を見つけると「おーい、ひさしぶり!捻挫少年ー!」と手を振って歩いてきた。
2週間しか経っていないが、かなり久しぶりに感じた。
37: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 15:22:05.83 ID:piIM8FBL0
「捻挫少年すごいよ、全体で30点くらい上がってる。」
「褒めてます?」
「いやいや、そこは素直に喜ぼうよ。実際に点数は上がってるんだし。」
「今までと比べて結構勉強したつもりだったんですけど…」
38: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:22:29.68 ID:mYk8szNr0
暖かい風が構内を吹き抜けて、西日がグラウンドと教室を茜色に染めている。
真新しい鞄と制服を着た学生が増えたこの学校の最上級生になっても、自分自身には何も変化を感じていない。
ただ、受験という壁が迫ってきているだけのようだ。
こう思うと入学のときから、部活で面倒をみてくれた先輩たちはどんなに頼もしかっただろうか。
39: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:23:03.40 ID:mYk8szNr0
テスト期間に行ったボーリングでハンデと言って左手で投げて、あっけなく惨敗した鹿島には、残念賞として新しいグリップと安全のお守りを贈っておいた。
友人のラケットにはその新しいグリップが巻かれ、かばんにはお守りがついている。
成績は同じぐらいでパッとしないが、テニスにおいては中々センスのある彼には怪我だけはしてほしくなかった。
真剣な顔で黄色いボールを追いかける友人の背中を見ながら、今日もテニスコートの脇を抜けて図書館へと足を向ける。
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