勇者「彼は正しく英雄だった」
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358:名無しNIPPER[saga]
2019/01/27(日) 01:57:04.43 ID:8oN8VcFcO

「頼む、やめたまえ……」

最早、戦場に人の声は届かない。命を擲つ獣と、命を奪う獣しか存在しない。

「君たち、もう、死ぬのはやめたまえ」

「命は美しい。それを捨てるなど、あってはならないよ」

「だから君たち、やめたまえよ」

戦場にあって命の尊さを説くなど馬鹿げていると彼自身も思った。しかし、言わずにはいられなかった。

五体を投げ出して懇願を繰り返す彼を、無感情な魔術師達が見ていた。

彼はそれに気付かず懇願し続けたが、耳を傾ける者はない。彼は遂に諦めかけた。

その時だった。

何処からか彼女の声が聞こえた。か細く、弱々しく、今にも息絶えそうな声がした。

監視者は声のする方向へ向かおうとしたが、今や正確な方向など分かるはずもなかった。

視界はぼやけ、音もはっきりとは聞こえない。さっきの声も幻聴である可能性がある。

(あれは確かに彼女の声だった。こっちだ、きっと、こっちから聞こえた)



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