勇者「彼は正しく英雄だった」
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357:名無しNIPPER[saga]
2019/01/27(日) 01:56:36.70 ID:8oN8VcFcO

軍勢の魔術に巻き込まれてしまったのだろうか、それとも既に逃げ出したのだろうか。

監視者は後者であることを祈りながら戦場を這い回り、何処にも彼女の姿がないことを確認しようとした。

這い回る彼を気にする者は一人もなく、彼だけが戦場にいながら戦場を眺めていた。

軍勢でありながら、まるで一つの意思を持つ生物のように魔術師達は突撃を繰り返す。

命に尊さなどないと、命に価値などないと、それを命を以て証明しているかのようだった。

「君たち、もうやめたまえ。やめたまえよ」

監視者には、最早耐えられなかった。

彼は人間が幾ら死のうと自分の心が動くことはないと、そう思っていた。

どの生物より知性がありながら、どの生物よりも野蛮で愚かな人間が心底嫌いだった。

彼女だけが心の拠り所だった。彼女の自由を尊敬し、羨望し、時には癒されもした。

そんな彼女を脅かし、下らぬ戦にさえも巻き込む人間を、彼は更に嫌った。

だがそれでも、ざまあみろとは思えなかった。何故なら、彼はまだ人間であるからだ。



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